ロボットの社会実装は進むか、フラワー・ロボティクスが「Patin」で目指す未来インタビュー(1/3 ページ)

AIと移動機能を持った“機能拡張型家庭用ロボット”「Patin」(パタン)を手掛ける、フラワー・ロボティクスの松井龍哉氏。ロボットベンチャーを10年以上経営する松井氏の目に、“ロボットブーム”ともいえる現状はどう写るのか。

» 2015年02月02日 07時00分 公開
[渡邊宏MONOist]

 「Posy」(2002年)や「Palette」(2005年)、「Polaris」(2009年)などのロボットを世に送り出してきたフラワー・ロボティクス社のCEO兼チーフデザイナー、松井龍哉氏。同社では現在、AIと移動機能を持った“機能拡張型家庭用ロボット”「Patin」(パタン)の2016年発売を目指している。

 これまでロボットと言えば産業用とホビー用を示すことが多かったが、2014年には「第三次ロボットブーム」という言葉とともに、医療や福祉、エンターテイメント、個人向けサービスなどにロボットを導入する「ロボットの社会実装」やそれらによって起こる「新ロボット産業」などの言葉を聞く機会が増えた。

 日本政府も成長戦略の1つとして非製造分野(サービスなど)での市場を20倍とするなどのロボット振興を掲げ、また、2014年9月には「ロボット革命実現会議」を発足させるなど、ロボットの社会実装、新ロボット産業の立ち上げ機運は熱を帯びている。ロボットベンチャーを15年経営し、数々の製品を生み出してきた松井氏にとって、現状はどう写り、どのような未来を見つめているのか。話を聞いた。

photo フラワー・ロボティクス 松井龍哉氏
photo 「既存機能の自律移動化」をコンセプトにする、Patinの使用イメージ。上部のサービスユニットを交換することで、さまざまな機能をもった自走ロボットにすることが可能だ(出展:フラワー・ロボティクス)

――2014年は「第三次ロボットブーム」など、ロボットに関する話題を耳にすることが増えたと感じますが、ロボット開発の現場にいらっしゃる身としての感想は。

松井氏: 2014年が第三次だとしたら、第二次はソニーの「AIBO」(1999年)やホンダの「P3」(1997年)、「ASIMO」(2000年)のころでしょうか。空想の産物でしかなったロボットが、技術の発達で形を得た時代ですね。コンピュータやロボット工学の進歩によって具現化が可能となり、いろいろなヒトがロボット製作にチャレンジしました。ですが、ごく一部の例外を除くと産業(ビジネス)として定着はしませんでした。

 今回の第三次ブームでは、前回に果たされなかった産業化(ビジネス化)を前提としているかどうかに大きな違いがあるように感じます。実際、私の所にも各種メーカーより、投資関連の問い合わせが相当増えています。これは第二次ブーム時とは全く違う現象です。

 その背景にはさまざまな要素があります。試作や生産のハードルが下がっていることもありますし、センサーやプロセッサなどデバイスの進化も大きな要因です。しかし、個人的には、高速なネットワークに接続しやすい環境が整ってきたことがブームの出現に大きな役割を果たしているように思います。

 第二次ブームから10年以上が経過して、ロボットの開発環境は大きく変化しましたが、ロボットをビジネスにする、というのはまた別の話です。生活に何を提供するかをしっかり提示できないと、ビジネスとして生き残れません。「楽しい」「面白い」というベネフィットだけでは、継続性や収益性のある産業にならないことは既に証明されてしまっているのです。

――では、その何を提供するかのユーザーベネフィットとして、ロボットはどのようなものが想定できるのでしょうか。

松井氏: まずは、「既存機能のロボット化」(車いすのロボット化や義手へのロボット技術投入など)があり、もう1つとして、自律型ロボットというジャンルが有望ではないかと考えています。

 自律したロボットとクラウドコンピューティングの組み合わせ、これはヒトと機械のコミュニケーションにとって、非常に重要なものになると考えています。フラワー・ロボティクスでは、ある設定された範囲の中で最適な判断をしていく自律型ロボットとして、クラウドと連携したスマートロボット「Patin(パタン)」を開発しています。スタンドアロンではなく、クラウド連携型としたのは、社会と関わりを持たない生活がありえないように、ロボットにとってネットワークが欠かせないからです。

 ロボットというとヒト型、ヒューマノイドロボットという印象を持たれることも多いですが、ヒューマノイドロボットに全てをやらせるのはいろいろな意味で無理があります。ロボットが生活に入っていくことを考えると、さまざまな要素から「移動」と「機能」を切り出せばよいのではと考えたのです。これがPatinの発想につながっていくこととなりました。

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