例えばスペースインベーダーの「名古屋撃ち」は、敵を最後まで引き付ければ、相手からの攻撃が当たらないというバグを利用し、ギリギリまで敵を引き付け攻撃するというテクニックです。
通常プレイ手法において、プレーヤーはいかに「早く」「正確に」迫りくるエイリアンを倒そうと考えます。ですが、この技を考案したユーザーは逆に敵を引き付けさえすればゲームを有利にできると考えたのでしょう。
同程度の深刻さのバグであっても、組み込み系とメインフレーム系では、社会的影響度や発生頻度が大きく異なります。高価なメインフレームは数十台しか売れないため、発生確率が0.01%のバグは、まず、表面に出ることはありません。一方、数十万台も売れる組み込み系では、発生確率が0.01%のバグは、数千台に影響が出て、ユーザーから大量のクレームが飛んできます。このように、「数が多い」「稼働期間が長い」ソフトウェアは、特別の品質制御手法を実施する必要があります。
便利テクニックとしての裏技は、幅広いものがあります。昔は、「ゲーム裏技集」みたいな本がたくさん出版されていました。
例としてRPG(ロールプレイングゲーム)を挙げますと、「味方キャラクターのレベルを効率よく上げる」という裏技があります。通常、キャラクターのレベルを短期間で上げるときは、経験値を大量に稼げる敵モンスターを効率よく倒すことが必要となります。
この「便利系裏技」は、お金はあるけど時間のない社会人ゲーマーには大変重宝される裏技でした。
仕様としての裏技は、開発者が意図的に埋め込んだ裏技のことです。ある種のイースターエッグのようなものでしょうか。あるいは、デバッグモードを消さずに残しておいたのかもしれません。
対戦格闘ゲームでの「隠しコマンド」を例とします。初期状態で使用可能キャラクターが全て出ているわけではなく、隠しキャラクター(条件をクリアすると現れる)が登場する場合があります。その場合、あるコマンド(コントローラーのボタンや方向キーの組み合わせ)を入力すると全てのキャラクターがアンロックされる裏技がありました。
通常プレイでは数時間かかる難所も、この一発のコマンドを入れるだけで済んでしまう優れものでした。それ以外にも、隠しコマンドの裏技は様々な種類のものがあったようです。
「仕様書に未記載の機能」を発見した時の喜びは、非常に大きなもので、ゲームに深くのめり込む理由にもなります。「あえて隠しておく」は、ゲーム系ソフトウェアならではのサプライズ機能と言えます。
今回は、ゲームの裏技を3種類に分類し、解説しました。ゲーム系では、ユーザーが過労にならない限り、ソフトウェアが人命に影響しません。このため、ユーザーは一般の家電製品と異なり、バグや裏技を楽しんで遊ぶという土壌があると考えます。
家電系の裏技としては電気代節約や効果の増幅は期待できるでしょうが、製品を楽しむというゲーム感覚的な要求を満たせていません。家電系ソフトウェアも、そんな遊び感覚を備えた裏技が出現する予感がします。
東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士)
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