「良いバグ」vs「悪いバグ」のケーススタディ山浦恒央の“くみこみ”な話(69)(1/2 ページ)

ソフトウェアのバグは一般に“あってならないもの”ですが、ゲームソフトにおいてはバグが魅力になることもあります。今回は4つのケースを通じて、ユーザー目線での「良いバグ」が何か、考えてみましょう。

» 2014年12月29日 09時00分 公開
[山浦恒央 東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士),MONOist]

1.はじめに

 ゲームのソフトウェアは、組み込み系ソフトウェアの代表選手です。前回の「魅力のないゲーム」と「魅力のあるバグ」では、ゲームでのバグと、一般的なソフトウェアのバグの考え方の違いについて紹介し、「良いバグ」を取り上げました。

 さるアメリカの有名新聞のコラムで、「およそ、この世の中には、『良い戦争』と『悪い平和』はない」と書いてありました。「うまい表現だし、確かにその通りだなぁ」と感心したことを覚えています。前回書いた「良いバグ」が、この「良い戦争」かも知れません。

 一般の組み込み系ソフトウェア開発のデバッグ工程では、「バグは悪者」であり「良いバグ」はありません。開発者はバグを徹底的に叩き出し、品質を上げようとします。同じ組み込み系でも、ゲーム系は非常に特殊な状況にあります。前回、「ゲームには、『良いバグ』がある」との趣旨で話を展開しましたが、「良いバグ」に関して、いろいろな見解を持たれたことでしょう。

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 「どんなに軽微なバグでも、見つけた限り、全てリリース前に取り除くべきである」と江戸の武士のように清廉潔白なひともいますし、「ゲームにバグがあっても、プレーヤーが楽しければそれでよい」と柔軟に考えるひとや、「フリーズは許せるけど、他は許せない」と自分で許容範囲の境界線を引くひともいます。

 今回は、ユーザー視点から「良いバグ」と「悪いバグ」を分析します。

2.部屋の害虫

 本題に入る前に、身近な例で「良いバグ」と「悪いバグ」を考えます。バグ(bug)の本来の意味は、昆虫、虫です[1]。虫にちなんで、「自分の部屋に虫が入った時の対処法」を考えましょう。

 皆さんは、自分の部屋で虫(や生物)を見た場合、どうしますか? 筆者は、クモとは共存共栄しますが、蚊やハエは目の前をブンブン飛び回り、邪魔でうるさいので全力で駆除します(「うるさい」は漢字で「五月蝿い」と書きます。昔から、ハエに悩まされたようです)。

 皆さんはどのような基準をお持ちですか? 「虫は全て許せない」「何が入っても気にならない」「どうしてもクモだけは無理……」と多種多様な意見があるでしょう。

 一方、害虫(というより、「外部から侵入した生物」)でもヤモリを筆頭とする人畜無害な「虫」もいます。ヤモリの外観は少しグロテスクですが、昔から、家の守り神として知られ、害虫を食べてくれるありがたい存在です。

 部屋の害虫と同じように、ソフトウェアのバグも、人によって良い、悪いの範囲は異なります。ゲームの「良いバグ」「悪いバグ」を以下の例題とともに、ユーザー視点で考えましょう。

[1]真空管を使っていた黎明期のコンピュータで、不具合が発生し、配線板の裏をチェックしたところ、蛾が線に焼け焦げて張り付いてショートしたことから、コンピュータの不良、特に、ソフトウェアの欠陥を「バグ」と呼ぶようになったそうです。

3.状況別の「良いバグ」と「悪いバグ」

 「ゲームのバグ」の範囲が広すぎるため、ケーススタディとなるバグをいくつか取り上げます。皆さんは、「これはバグだろう」「自分なら許せる」などと考えながら気軽にお読みください。

 以下のケーススタディでは、家庭用ゲーム機(ファミリーコンピュータやプレイステーションなど)でのゲームソフトを題材としますが、「ソーシャルゲームではこうだ!」「FPS(First Person Shooting)のオンライン対戦だと当てはまらない」など自由に考えて頂ければと思います。

3.1 ゲームのデータが消える

 ゲームのヘビーユーザーなら、「データが消える」バグを何度も体験されたでしょう。筆者は幸いにデータ破壊のバグを体験したことはありませんが[2]、この種類のバグは頻繁に報告されています。

 このバグは、筆者は「悪いバグ」の筆頭であると考えています。例えば、RPGのようなプレイ時間が数十時間にもなるゲームでデータ消える場合、ユーザーのメンタルとモチベーションは完全に崩壊し、二度とゲームをやらない可能性があるためです。

[2] 「データが消える」と言えば、ファミコンやゲームボーイなどで一部のデータが消えることは頻繁に体験しました。ソフトがカートリッジでしたので、特性上、頻繁にデータが消えたようです。データが消えた時の行き場のない怒りと悲しみは今現在でも、「思い出し怒り」ができるほどです。

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