導入に失敗しないPLM、ジャムコと村田製作所の場合――ACE 2014 Japan製造IT導入事例(1/2 ページ)

アラスジャパンはユーザーコミュニティイベント「ACE 2014 Japan ―東京」を都内で開催。同社のオープンソースPLMである「Aras Innovator」の今後の方向性を紹介するとともに、ジャムコや村田製作所の導入事例を紹介した。

» 2014年10月08日 08時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
photo

 米国Arasの日本法人であるアラスジャパンは2014年10月7日、都内でユーザーコミュニティイベント「ACE 2014 Japan ―東京」を開催し、同社のオープンソースPLMである「Aras Innovator」の今後の方向性を紹介するとともに、ジャムコや村田製作所の導入事例を紹介した。

 米国Arasは2000年創業のPLMベンダーだ。同社の特徴は「エンタープライズ・オープンソース・ビジネスモデル」という製造系のソフトウェアベンダーとしては珍しいビジネスモデルを取っていることにある。同モデルでは、ソフトウェアやライセンスを販売しない。その代わりに、ソフトウェアに掛かるサポート費用やメンテナンス費用をサブスクリプション(定期契約)で提供する。このビジネスモデルの利点は、ソフトウェアそのものは無償である点だ。実際には、データの移行やカスタマイズなどについてはSIヤーが行うことになるため、ユーザー企業が全く負担なしにシステムの本番利用を行えるわけではない。しかし、フルバージョンのPLMソフトを試行できるため、導入リスクを低減できる利点がある。

photo Aras創業者でCEOのピーター・シュローラ氏

 これらの点が評価され、日本国内での導入は徐々に拡大。基調講演に登壇した米国Aras創業者でCEOであるピーター・シュローラ(Peter Schroer)氏は「エンタープライズ・オープンソース・ビジネスモデルを掲げて取り組む中で最も大切なのは顧客の声を聞くこと。その意味でも世界中でオープンコミュニティ活動に力を入れている。ただその中でも、日本のコミュニティは世界で最も高い成長率を実現している。われわれもより日本の要望に応えた開発を強化していく」と語る。

 実際にAras Innovatorの機能的な進化にも取り組んでいる。自動車業界やハイテク業界、産業機器業界からのニーズがあるという、バリエーション展開を容易にするオプションの用意などの他、CADデータやOfficeドキュメント、イメージ図面などにコメントをつけてPLM内で管理できるようにする「セキュアソーシャル」機能を2014年末までに展開するという。さらにPLMで管理されている3次元CADデータやメタデータを取り込んで、ドキュメント構造に合わせて技術文書を作成する「テックパブリケーション」という機能なども展開予定だ。

 さらに協業による機能強化も推進。新たにソフトウェア管理(ALM:Application Lifecycle Management)領域でIBMとの協業を進める他、クラウド環境としてMicrosoftのAzureに対応。またモバイルアプリなどの共同開発なども進めていくという。シュローラ氏は「2015年はさらに要望に応えた機能を実装していく」と話している。

7つのCAD環境、3つのCADデータベース、2つのBOMデータベースを統合

 事例講演に登壇したジャムコでは、Aras Innovatorを導入した理由として「さまざまな経緯があり社内で7つのCADを扱う環境になっており、これらを問題なく扱える環境が必要だった」(ジャムコ 情報システム部 桜井浩氏)という。ジャムコはもともと航空機の整備を行う企業として創業し、現在は整備事業とともに、航空機用機器や内装品などを製造している。特にボーイング向けの内装品やトイレ設備などでは高いシェアを獲得しているという。

 ジャムコが、7つのCADが並行活用される経緯は以下のような流れだ。

  1. 1980年代後半に手書きからの移行を目指し、初めて2次元CADの「CADIAN」を導入
  2. 1999年に3次元CADへの対応を目指し「NX」(当時はUnigraphics)を導入
  3. ワイヤーハーネスのモデリングなどを行うために「Brics CAD」のアドオンソフトである「ACAD-DENKI(旧DENKI2000)」を導入
  4. ボーイング社の787型機向けの内装品開発に向け、受注条件に入っていた「CATIA」を導入
  5. 生産技術部門がNCデータの作成を行うための手ごろなCADとして「SolidWorks」を導入
  6. 解析レポート作成用にOLE(Object Linking and Embedding)の埋め込みを行うため「AutoCAD」を導入
  7. CADIANのWindows 7対応が難しかったため2次元CADの移行が必要で「BricsCAD」を導入
photo ジャムコ 情報システム部 桜井浩氏

 これらの複雑なCAD活用の現状から、CADデータの管理システムも複雑化。CADIAN導入時はCADデータ自体を管理する仕組みはなく、ファイルベースでの管理を行っていた。一方で図面情報やBOM情報については、一元管理する仕組みを独自に開発。図面情報管理システムは開発案件や図面体系別にデータベースに分けるという状況となっていた。さらにNX導入時には、排他制御管理のために「Teamcenter」を導入。情報と統合すれば、本来はPLMとしての活用ができるはずだが、排他制御管理機能のみを利用していた状況だった。一方、CATIA導入時にモデルツリーからBOMを作成することに加え、変更履歴の保管を行うために「MatrixOne」を用いたPDMシステムを初めて導入した。

 最終的に新たにシステムの整備を行う前の段階で、CADデータはボーイング787用のCATIAのデータと、787以外のNXのデータ、その他のCADデータという3つのデータベースに分断された形となっていた。同様にBOMデータについても、787用とそれ以外で分断されている状況になっていた。

 これらの状況を解決するために新たなPLMの導入を決定。5つの候補から最終的に「採用当時は特に知らず不安もあったが、導入費用が安い点、Web対応ができている点、プログラム開発が容易である点、将来的な発展性やサポート体制などを見極めた結果、Aras Innovatorに決めた」(桜井氏)という。

 導入プロジェクトは2012年7月から開始。プロジェクト名を「ジェダイ(JEDAIT:Jamco Equipment Design system built with Aras Innovator Technology)」とし、最終的に2014年10月後半から本格運用を開始する予定だという。導入の利点として「当然、データ統合のメリットなどもあるが、プログラム開発が容易である点でも恩恵を受けている」と桜井氏は語る。

 今後はさらにグローバル拠点への展開を進め「最終的には全てのエンジニアの受け皿となれるような“エンジニアリングポータル”のようなシステムを構築したい」と桜井氏は今後の目標を述べている。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.