WECという世界選手権自体は、2012年に初めて開催されてから今年で3年目という、とても若い自動車レースシリーズです。しかしその前身となる「スポーツカー世界選手権」の歴史は長く、1953年に発足しています。幾度か大会の名前を変え、一時は中断していた時期もありましたが、大会の意志は絶えることなく受け継がれてきました。そして言うまでもなく、ル・マン24時間レースは、それを組み込む自動車レースシリーズ自体の衰退を受けてもなお熱狂的に支えられてきました。80年を越える長きにわたり、シリーズが中断している時ですら、単戦で存続し続けてきたのです。
WECはそのル・マンのみ24時間、その他の大会は6時間を戦う耐久レースのシリーズです(競技規則では6時間以上と明記されていますが、いまのところル・マン以外は全て6時間です)。欧州、アジア、米国を転戦しています。
参戦クラスは4つ。いわゆるル・マンカーと呼ばれるプロトタイプ車両のLMP1(Le Mans Prototype 1)」、「LMP2(Le Mans Prototype 2)」と、グランドツーリングカー(市販車タイプ)のプロドライバークラス「LMGTE-PRO(Le Mans Grand Touring Endurance Pro)」、アマチュアドライバー「LMGTE-AM(Le Mans Grand Touring Endurance Am)」に分けられます。
LMP1の中でもハイブリッドシステムを搭載するのはLMP1-H、それ以外はLMP1-Lとさらに細分化。それぞれに参戦できるドライバーのレベルも細かく分けられていて、参戦歴や戦績によって、参戦できるクラスが違うのです。
で、トヨタ、アウディ、ポルシェがアツ〜いハイブリッドバトルを繰り広げているのがトップカテゴリーであるLMP1-H。HはもちろんハイブリッドのHです。
そもそも1953年に発足したスポーツカー世界選手権のころから、この耐久戦はマニファクチャラーズ・チャンピオンシップでした。F1がスプリントレースでドライバーズレースだったのに対して、スポーツカー世界選手権およびそれに由来する大会はずっと、メーカーやサプライヤーの開発の場として活発に使われてきたわけです。
そんな中、2011年のル・マン24時間レースで、ハイブリッドシステムに関する競技規則が明記され、自動車メーカーが自社チームとして参戦する“ワークス”チームはハイブリッドシステムを搭載することが義務づけられました。翌年(2012年)からシリーズ化されたWECのレギュレーションも、それに準ずるかたちとなりました。結果、ハイブリッドシステムという先進技術研究の実走テストの場として、また先進技術プロモーションの広告ツールとして、新しい時代の自動車メーカーであることをアピールする場として、それぞれの思惑にピッタリとマッチした戦いの舞台になったのです。
その証拠に、ル・マン24時間レースでアウディがトヨタに勝った翌日、開催地の地元フランスの新聞にアウディがデカデカと見開き広告を打ちました。
「ハイブリッドといえば、アウディです」
プリウスの世界的な成功でハイブリッド車のイメージをけん引するトヨタに、ペロッと舌を出すようなペーソス溢れる勝利宣言! そのドラマチックな広告に、熱狂的な地元ファンがよりアウディに心酔したのは、言うまでもないです。
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