次が、「D コスト」の項目である。ここは、いろいろな要素があるため、8種類を挙げておこう。
最初は「土地代」(D1、建設費も含む)である。工場誘致に熱心な国や地域では、日本に比べかなり有利であるが、基本的にワン・タイムの投資支出項目であることを忘れてはいけない。次の「エネルギー」(D2)、「水」(D3)は、いずれも工業的なインフラのレベルを測る重要な要素である。電力・ガス・燃料・用水は、その価格のみならず、供給の量と安定性が大事だ。
「原料資材価格」(D4)と、「給与水準(人件費)」(D5)は、言うまでもなく最も重視されてきたコスト項目である。特に労働集約型とならざるを得ない業種では重要だ。しかし、全ての製造業にとって同じ比重にはならない。それを客観的に比較したい場合は、財務諸表における製造原価報告書をチェックすれば分かる。仮に人件費単価がA国とB国で3割違っても、製造原価に占める人件費比率が15%程度ならば、その差は製品価格全体の5%にも満たない。このように、全体のバランス感の中で判断することが大事である。
「駐在生活コスト」(D7)は、通常は間接費のため製造原価には直接表れない。しかし、当然ながら派遣される日本人社員にとっては無視できない項目であるし、それは結局、本社費用としてはね返ってくる。
最後の「E その他外部環境」では、いろいろ考えられるが、主要なもの4つを挙げておく。
「サプライチェーン」(E1)は、原材料から市場までの全体の流れの中における位置付けを示す。当然ながら、原料供給地や市場から遠いと、輸送のためにムダに費用や時間がかかるばかりでなく、需要の変化などに即応できない可能性もある。「工業インフラ」(E2)と「治安」(E3)については、特にアジアの途上国進出企業が、苦労を強いられてきた項目である。最後になるが、「通貨の安定性・通用力」(E4)もまた、採算に直接影響を与える項目である。
これから海外工場の立地を考える企業は、候補地に関し、前述の20の評価項目について情報を収集し、評価していく必要がある。公開されている情報源としては、例えばJETROが毎年行う調査「アジア主要都市・地域の投資関連コスト比較」などがある。これは雑誌『ジェトロセンサー』などに掲載されているので1つの参考としてほしい。
無論、入手できる情報には限りがあろうし、定量化できないものもあるため、すぐに判定しがたい項目も少なくないだろう。しかし、少なくとも○×△程度の評価を表にした上で、総合判断に向かうべきである。当然ながら、これら20の評価項目のどれを重視するかは、海外進出の目的と意図によって異なる。だからこそ経営者が、「進出の目的」を明確にすることが大切なのである。その上で、十分に納得のいく賢い決断を下していただきたい。
(次回へ続く)
1982年、東京大学大学院工学系研究科修了。日揮にて国内外の製造業向けに工場計画・設計とプロジェクト・マネジメントに従事。特に計画・スケジューリング技術とプロジェクト評価を専門とする。工学博士、中小企業診断士、PMP。1985〜1986年、米国東西センター客員研究員。東京大学・法政大学講師。スケジューリング学会「プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会」主査、NPO法人「ものづくりAPS推進機構」理事。
1969年、東京理科大学理学部卒業。日揮にて石油・化学・天然ガスプラントの建設・保全プロジェクトに従事。1988年、独立コンサルタントに転進。1991〜2001年までニューヨークを拠点に北米各地で現地企業を支援。1995年よりAPO・JICA専門家としてアジア・オセアニア諸国の現地企業・政府機関を指導している。
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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