間に合うか!? 熟練技術者の“暗黙知”承継――カルソニックカンセイの場合ナレッジマネジメント(2/2 ページ)

» 2014年03月11日 13時00分 公開
[三島一孝MONOist]
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“使える”開発手順書とは?

 「CK-EWM(Calsonic Kansei Engineering Work Manual)」は経験の浅いエンジニアでも開発の全体像を把握し、個々の業務を整流化して業務を誘導することを目指した技術開発の教本のようなもの。「従来の欧米型、日本型の開発手順書なども研究したが、どちらも熟練の技術者にとって使いやすいもので経験の浅いエンジニアが簡単に使いこなせるものではなかった。CK-EWMでは、“分かりやすい”“使いやすい”“本質的に”という3点をポイントとし、経験の浅いエンジニアが開発業務の指針とできるような形を目指した」と成田氏は話している。

 これらのコンセプトの下、まずベテランエンジニアの業務遂行能力を分析。ベテラン技術者は自動車メーカーの開発プロジェクトの全体像を把握した上で、カルソニックカンセイの開発プロジェクトを把握し、必要な業務手順に分解して技術検討し、指示を出していくという流れで取り組んでいる。

 そこで、ベテランの能力は「必要な業務手順への分解能力と正しい技術検討の実行力(暗黙知、形式知、指導力)」にあると定義し、これらのノウハウを抽出する「ナレッジエンジニア」制度を実施。3つのグレードのナレッジエンジニア資格を設定することで、自走可能なEWM策定体制を構築するとともに教育体系を策定した。ナレッジエンジニアによるベテラン技術者への聞き取り調査により、CK-EWMに必要な情報を抽出していった。最終的に、製品開発では31、生産技術では26のEWMを整理。6000に及ぶインデックスと2150のCAES、95の全社基準を収納したという。

 成田氏は「ベテラン技術者のノウハウを最小工数で最大限引き出してEWMに組み込むことを目指した」と語る。

全体像から詳細業務までを定義する4階層構成

 仕組みとしての工夫もした。プロジェクトの全体像から、関連部署とのワークフロー、自部署とのワークフロー、個別の詳細手順までの4階層構成とし、それぞれのフェーズにおいてどういう順番で何をすればよいかを明確に示すようにナビゲーションできるようにしたという。

 例えば、レベル1では主要顧客の開発ワークフローとカルソニックカンセイの開発ワークフローの関係を示し、各フェーズの内容の定義が分かるようにする。さらにドリルダウンしていくと、関連部署、自部署、個人のフェーズで「どういうインプットがあり、いつまでにどういうアウトプットを出さなければいけないか」を明確に定義しているという。

CK-EWMの4つの階層 CK-EWMの4つの階層(クリックで拡大)

 また、海外での利用率を高めるために、海外拠点の担当者でも理解できるように、文章構成をシンプルな形で統一することで英語化を容易にした。加えて、新たな文書作成に際しては、ナレッジマネジメントによる聞き取り調査などでも、日本語のテクニカルライターとともに英語のテクニカルライターを用意し、最初から英語で理解できるように文書を作成するようにしたという。

活用率は大幅に上昇

 これらの結果、システムの活用率は日本で4倍、海外で14倍になった他、開発効率は約12%向上し、余剰人員を他の注力業務に回すことなども可能になったという。

 「本格的な効果はまだこれからのところもあるが、特に海外からの反応はすごく高いものがあり、こういうノウハウが求められていたという期待を感じた。今後はさらにこれらで構築した仕組みをサイクルで回し、効果を高めていきたい」と成田氏は今後について話している。

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