工学院大学は、PM2.5の成分を1粒子ごとに分析できる顕微鏡を開発した。これにより、PM2.5の正確な発生源や、人体への影響などがより詳しく分かるようになるという。
工学院大学は2014年2月27日、PM2.5の成分を1粒子ごとに分析できる新型の電子顕微鏡を開発した。
PM2.5は、粒径が2.5μm以下の粒子の総称である。工場や自動車の排気ガスなど人間の活動により発生することが多く、大気汚染の要因物質の1つとされている。開発チームを率いた同大学 工学部電気システム工学科の坂本哲夫教授は、「新型顕微鏡で1粒子を観察することにより、PM2.5の成分や発生源、人体への影響がより詳しく分析できるようになる」と話す。
新型顕微鏡は「FIB-TOF-SIMS/SNMS(集束イオンビーム飛行時間型二次イオン質量分析/粒子質量分析法)質量顕微鏡」と呼ばれるもので、大きく分けて「集束イオンビームによる加工装置」「質量分析計」「電子顕微鏡」から構成される。
という仕組みで分析する。
ポイントとなるのがイオンビームだ。粒径が2.5μm以下という非常に小さい粒子にイオンビームをうまく当てて表面を削るには、イオンビームをできるだけ細く絞らなくてはならない。工学院大学は、集束レンズや対物レンズの精度を上げることや、イオンビームを出すイオン源に液体金属であるガリウム(Ga)を使用することなどにより、イオンビームを細く絞ることに成功したという。「ガリウムイオン源は、細い針の先から電気によってイオンを放射する。そのため、アルゴンや酸素、セシウムなどをイオン源として使う場合に比べて、小さな光源(点光源)を作りやすい。大本のイオン源が小さければ、イオンビームを細く絞りやすくなる」(坂本教授)。
イオンビームを細く絞ることで、40nmの画像分解能を実現することに成功した。坂本教授は、「2.5μmの粒子を見るのが目的なので、40nmの画像分解能があれば十分である」と述べる。40nmもの画像分解能を持つ電子顕微鏡は「世界初」(坂本教授)だという。
もう1つの大きな特長として、小さな粒子をイオンビームで削ることができるので、粒子の表面だけでなく、内部(断面)も分析できるようになったことが挙げられる。
PM2.5に対する現行の環境基準は、35μg/m3と、質量濃度が基準になっている。だが質量だけでは、無害とされる成分の粒子が多いのか、有害とされる成分の粒子が多いのか判断がつかない。そのため、本来は個々の粒子を分析すべきだが、既存の技術では難しかったという。
工学院大学は、独立行政法人 科学技術振興機構による開発費支援の下、2004年から新型顕微鏡の開発を進めていた。新型顕微鏡の販売も開始していて、参考価格は1台1億8000万円。坂本教授は、PM2.5の分析の他、リチウムイオン電池や太陽電池、有機ELなどの材料分析などにも、今回開発した顕微鏡を応用できると考えている。
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