2013年8月21〜27日の7日間、FAB9が開催される。記者発表会では、Fablab創設者のニール・ガーシェンフェルド氏、日本におけるFablabのリーダー田中浩也氏が登壇。FablabやFAB9へ込めた思いについて語った。
FAB9実行委員会は2013年8月20日、市民工房ネットワークのFablab(ファブラボ)関係者が一挙に集うイベント「第9回 世界ファブラボ代表者会議(FAB9)」に関する記者発表会を開催した。FAB9の会期は2013年8月21〜27日の7日間。会場は、横浜市中区内の複数の施設。ファブラボ代表者会議は、毎年違う国で開催し続け、今回で9回目となる(Fablabについて)。
FAB9は、Fablab運営者によるシンポジウムやワークショップ、コンペ、映画上映などさまざまなイベントが実施される(詳細)。約40カ国から200人程度のFablab運営関係者が参加する。一般参加が可能な公開イベントもあり、親子で楽しめるモノづくりイベントも開催する。
「モノづくりは汚れるので、スーツではなくて、ラフな格好で来てもらいたい」とFAB9実行委員長で慶應義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也氏。
横浜市中区内の3施設で、会期限定で日本国内のFablabにある、3Dプリンタや切削機、レーザーカッター、ミシンといったさまざまな装置を設置する。ここが会期中のモノづくり拠点となる。
代表者“会議”という少し堅い感じの名称であるものの「学会やビジネスミーティングとは少し違う」と田中氏は言う。世界中のモノづくり仲間が集まって、長い時間モノづくりに没頭する。皆でモノづくりの未来について話し合う。同氏は、その様を強化合宿あるいはクリエイティブ・サマーキャンプだと表現する。
田中氏が初めてFablab代表者会議に参加したのは、2009年。インドで開催された5年目の会議「FAB5」だった。田中氏が訪れたインドのFablabは、人口200人ほどの村にあった。そこにはレーザーカッターや3Dプリンタなど、モノづくりの最新機器がそろっていたという。Fablabに集まる人たちは、「自分たちが必要なものを、自分で作る」という昔ながらの、いわゆる自給自足生活を最新機器(ハイテク)を使ってかなえていた。例えば、ウェザーデータロガー、人力発電機、野犬撃退機、ソーラー調理機などを自作していた。中には、小学生による自作アンテナもあった。田中氏は、そのような状況に衝撃を受けた。その体験がきっかけとなり、同氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)の「(ほぼ)何でも作る方法」を受講することになり、後に日本でFablabを設立することになったという。
今回のテーマは、「パーソナル・ファブリケーション――新たなルネサンスの夜明け」。「ルネサンス」の意味について、田中氏はこう語った。「1つは、『人間性の賛歌の精神』という意味。ルネサンスの時代では、個人の持つ可能性を最大限に発揮し、内面からの自己表現により、自分自身が豊かに生きようとする精神が提唱された。もう1つは『文芸復興の精神(過去の再解釈)』で、産業革命以前の人々は、家の中で、自分たちが必要とするものを自分たちで作っていた。今のテクノロジーの上で、過去のライフスタイルにもう一度立ち返ってみたら、どのようにわれわれが変われるか、FAB9はそうしたことを実験する場でもある」。
日本開催について田中氏は、「これまでの開催都市の共通点は、『創造都市(Creative Cities)』であること。どの国も、自由と実権を非常に好むエンジニア、デザイナー、フリーランスの人が活動しやすい、さまざまな施策が打たれている。こういう創造都市は日本ならどこかと考えたところ、横浜だった。さまざまな文化や人々が存在し、Fablabとの親和性が高い」と語る。
FAB9共催者であるヨコハマ創造都市センターのセンター長 松井美鈴氏は、こう語った。「横浜は開港以来、さまざまな海外の文化を受け入れて、それを日本らしく消化し、発展、発信をしてきた街でもある。そうした中でFablabという世界中から人が集まる大会は、横浜にぴったりだと思った。200人近い参加者の方たちに、『横浜、良かったよ』と思っていただけるよう、(FAB9の)中心的施設として、温かくお迎えしたい」。
マサチューセッツ工科大学教授でビット・アンド・アトムズ・センター所長のニール・ガーシェンフェルド氏は、「世界のFablabコミュニティーの総意で、今回は日本が選ばれた。田中氏の思いがネットワークの中でシェアできていた」と述べた。
「コンピュータ技術の進化の歴史においては、ハッカーのような個人が集まってネットワークを形成し、新しい技術を生み、新しい経済を生んできた。パーソナルファブリケーションの歴史もそれと似通っている。Fablabの方々は開拓者であり、ハッカーのような存在。その開拓者の方々が製造業の経済の全てを引っ繰り返すわけではない。従来の製造業が衰退するわけでもない。FAB9は、開拓者たちが集まり、日本や世界の新しい経済を生みだすための議論を行う場であると思う」(ガーシェンフェルド氏)。
Fablab設立時から標準機器提供に協力する工作機械メーカー ローランド ディー.ジー. 取締役の伊藤純氏は、2005年にノルウェーで開催した「FAB2」に日本人として初めて参加したという。
「最近、メディアなどで3Dプリンタがよく取り上げられているが、デジタルツールはそれだけではない。切削加工機、レーザーカッター、さまざまなツールが世の中に広まってきている。モノづくりにおいても、かつてコンピュータが、メインフレームからPC、タブレット端末へと変遷してきたような過程を経て、デスクトップでモノが作れる時代になるのは間違いないだろう。ただしそういう過程において、現在のさまざまな加工機はまだ発展途上にあり、今後さらに進化していくだろう。Fablabの素晴らしいところは、そこにくる人たちが『何か新しい物を発想しよう』という、共有の場を提供している点。デジタルツールはどんどん進化しているものの、発想は人間がするものなので、『想像力を高める場』を共有し、そういう活動がどんどん広がっていけば、日本にも新しい発想やモノづくりが生まれてくると期待している」(伊藤氏)。
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