顧客の声に耳を傾けたら、ヒット製品が生まれた産学官共同研究で製品開発

東京電子は超高真空から大気圧まで計測できる複合型真空計を開発。そして同社のヒット製品となった。

» 2013年07月29日 10時00分 公開
[中嶋嘉祐/キャリアベース,MONOist]

 中小企業といえば、「製品開発はともかく、先端技術の研究までしている余裕がない」と考える人は多いかもしれない。確かにその通りなのだが、国や大学などの研究機関と共同研究をすることで、新しい事業・製品を生み出すことに成功している企業もある。

 そうした形で製品開発に成功している企業の事例として、真空状態を計測する真空計を手掛ける東京電子を紹介したい。

顧客の声に応えたことで大ヒット。1台でさまざまな真空領域を計測できる真空計を開発

 東京電子の主力製品は真空計。完全な真空状態では電流は流れないが、地球上ではいくら真空状態に近づけても、ごく微小な電流が流れてしまう。真空計はこれを利用し、流れる電流量を見て真空の度合いを計測する。

東京電子 代表取締役 黒岩雅英氏

「真空計という製品は、その名前の通り『どれくらい真空の状態になっているか』と計測するための装置です。真空状態になっていると、大気中よりも気体が少なくなり、クリーンさを保ちやすくなります。半導体や液晶テレビを製造する上で、内部を真空状態に保った製造装置は欠かせないものです。その製造装置内部の真空状態を計測する真空計も同様に、必要不可欠な計測装置になっています」(東京電子 代表取締役 黒岩雅英氏。以下、同)。

 ところで、一口に「真空」とは言っても非常に幅は広い。100Pa(パスカル)以上の低真空から、10のマイナス5乗Pa以下の超高真空まである。そこまで幅が広いと、1つの真空計で全ての真空状態を計測するのは至難のこと。低真空の状態を計測するための真空計、超高真空になっている真空状態を測るための真空計、といったように、計測する領域によって真空計を使い分けているのだ。

ピラニ真空計 PG-20

 「お客さまにとっては望ましい状況ではありませんでした。時には真空計の得意とする計測領域外の数値を測ろうとして精度が落ちたり、時には真空計自体の取り換えが必要になったりすることもありました。当然のように、あるお客さまから『自動で真空計を切り替えられるようにしたい』というご相談が当社に入りました。技術的に難しいご相談でしたが、何とかお客さまのニーズに応えようと努力を重ねました」(同)。

コンビネーションゲージ CC-10

 その結果、誕生したのが同社のヒット製品である複合型真空計「コンビネーションゲージ CC-10」だ。超高真空(10のマイナス7乗Pa)から大気圧(10の5乗Pa)までの真空度合いを計測することができる。

 自動で計測領域を切り替えられるようにするために、同社はCC-10の中に2つの真空計を組み込んだ。それぞれの真空計が得意とする領域を計測する分にはうまく機能したが、問題になったのは2つの真空計の間になる領域。それぞれの真空計が示す数値が異なってくるため、どちらの数値を信じればいいのかが分からなかった。

 同社は根気よく何度も計測を重ねることで、どちらの真空計が示した数値をどれくらい補正すれば正しい数値になるのかと調べ上げた。「経験を生かした感覚的な調整も必要だった」と黒岩社長は当時を振り返っている。

技術力を磨こうと大学との共同研究を推進。医療用加速器の電源装置など、新製品の開発にめど

 「ここ最近は特に、電子機器の高密度化が進み、より高度に真空状態を制御・計測しなくてはならなくなってきました。私どもといたしましても、日夜、技術力の研鑽(けんさん)に努めなくてはならないと痛感しています」(同)。

 技術力を磨くために取り組み始めたのが大学との共同研究。従来とは違う新たな計測方法を用いた真空計、大学で研究されたセンサー技術と同社の回路技術を組み合わせたマイクロ真空計など、続々と新技術を用いた製品開発のめどが立ちつつある。

イオンポンプ電源

 「私どものような中小企業では、仕事を与えられるのを待っていてはいけません。自ら仕事を作り出そうとする姿勢が必要になります。開発を進める場合も、新装置や新技術を開発するときも、待ちの姿勢でいては新しいものは生み出せません。自分で課題を見つけて、探究心を持って『これをやる』という目標・仕事を自分で生み出す姿勢が必要なのです。現状の仕事に埋もれてしまってはいけません。課題や探究心を持ち続けようとする姿勢こそが、モノづくり企業で働く者には必要とされるものだと考えています」(同)。

Profile

中嶋嘉祐(なかしま よしひろ)

フリーランス。理系学生向けの就職情報メディア『理系ナビ』の初代編集長&元事業部長。その後、転職情報ポータル『インディビジョン[転職]』のWebプロデューサーを務めた後、独立。ライター業のほか、マーケティング/戦略的PRなどの実務支援などにも取り組んでいる。



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