次に、「タイプラスワン」の背景をタイ国内から見てみましょう。今までのコラム(「知っておきたいASEAN事情」記事一覧)でもお伝えしている通り、タイでは相変わらず日本の製造業を中心とした外国投資は増加傾向にあります。一見、順調な成長を続けているように見受けられるタイですが、実は幾つかの問題を内包しています。
人口抑制策、女性の晩婚化・未婚化により、タイの合計特殊出生率(1人の女性が一生に生む子どもの平均数)は1980年の3.2人から2010年の1.6人へ半減しています。バンコクなどの都市部に限れば、0.9人程度だといわれています。少子化対策が国レベルの大きなテーマとなっている日本、韓国、台湾などのアジア先進国と同じ道をタイは歩み始めています。現在は、まだ出産年齢人口が多い「人口ボーナス期」であるため、少子化問題は顕在化していません。ただし、この人口ボーナス期はしばらく時間がたてば終焉を迎えるでしょう。
2012年4月にタイ国内で最低賃金の大幅引き上げが実施されてから1年余りが経過しました。2013年1月からは全国一律で日給300バーツ(約1000円)が適用されています。最低賃金の適用者は、労働者全体の2割程度ですが、最低賃金層が上がった結果、賃金体系全体が上昇しています。
この数年、アマタナコーン(Amatanakorn)、イースタンシーボード(Eastern Seaboard)、ナワナコーン(Nawanakorn)などの中心的な工業団地で発生していた労働者不足は、今や、ほとんど全ての工業団地共通の問題となっています。
2011年度の洪水被害後、新規工場の立地には顕著な傾向が見えます。洪水リスクの低い地域への集中です。新たに造成されたタイ東南部の工業団地に加え、今まで進出企業数の少なかった東部の工業団地(ゲートウェイ、304など)も土地価格が急上昇しています。タイの場合、中国などとは異なり、工場労働者は地元から供給されるのが一般的です。つまり、地元の人が地元の工場に勤務するということです。しかし、労働力不足が深刻化する中、この姿も変わってくるかもしれません。
2012年に打ち出されたBOI(タイ投資委員会)の労働集約型製造業からの脱皮を目指した新しい政策(関連記事:チャイナプラスワン戦略におけるタイ、変化の兆しが)は、盤谷日本人商工会議所を中心とした強いアピールによって、実施時期が2014年度に延期されました。しかしながら、「中進国の罠(わな)(低賃金国の追い上げと先進国との格差の板挟みで成長が停滞する状況)」を回避し、タイの未来図を描くBOI新政策が実施され、タイの製造業に大きな変化が訪れるのは時間の問題といえます。
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