次に運転状態の把握です。細かく挙げるとキリがありませんので、特に関連性が深いセンサーを選出しておきます。
※検出方法にはいろいろありますので、あえてセンサーを特定していません。
エンジン回転数も非常に重要な要素ですが、エンジン回転数だけではどのような運転状態によって現在のエンジン回転数になっているのかを把握することができません。
特に自動車はドライバーの意思が非常に重視されます。そこで重要となる情報がアクセルポジションセンサーやスロットルポジションセンサーです。
今から加速しようとしているのか、車速維持なのか、減速中なのかというドライバーの意思は、これらのセンサーによって把握することができます。
もちろんそれと同期する吸入空気量(吸気圧)も大切です。吸入空気量の計測はエアフローメーターや吸気圧(MAP:Manifold Absolute Pressure)センサーによって行われます。これらの値は、点火タイミングだけでなく燃料の基本噴射量を決定するためにも用いられています。
エンジン水温というのは、点火タイミングだけでなく、さまざまなエンジン制御において重要な情報です。エンジンは暖機終了後に各部品が膨張し、あらかじめ設計された通りの姿になります。それまでは、エンジンが安定して回転するようにさまざまな補正が必要です。その中の一つに点火タイミング補正があります。
登坂時を代表とする、低回転時の高負荷状態などではエンジンがノッキングすることがあります。急にアクセルを踏み込んだ時も同様ですが、ノッキングは異常燃焼によるエンジン打音ですので、点火タイミング補正によるエンジン保護を行います。(基本的には遅角制御)
エアコン(コンプレッサ)のオン/オフをはじめとする電気負荷の増減は、エンジン負荷の増減に直結しますので、その際にも点火タイミングを補正しています。
これらの情報を受信するECUは、さまざまな運転状況下における最適な点火タイミング情報をデータとして持っています。一般的に点火マップと呼ばれているこのデータに従って、一次電流の断続を、ディストリビューターを用いずに電子制御で行っているのです。
ECUは、ディストリビューターが機械的に行なっていた点火順序に従った一次電流の断続も行ないます。このため、各シリンダーにイグナイタとイグニッションコイルを内蔵したダイレクトイグニッションコイルシステムが現在の主流となっています。
ダイレクトイグニッションでは、イグニッションコイルとスパークプラグの距離がこれ以上ないほど短いので、配電損失が最小限となり、結果的に燃焼効率向上に寄与していると考えられています。
先ほどご紹介した各センサーからの情報を基に、ECUは一次電流のアースを断続する制御を行い、各シリンダーの点火を行います。
接点式ディストリビューターを使っていた時代から考えますと、部品の簡素化はもちろん、点火タイミングを最適化する技術は驚くほど進化しました。
ディストリビューターが用いられなくなる一方で、今でも変わらず残っているのが、前回説明したイグニッションコイルを用いた昇圧とスパークプラグによる点火(火花発生)です。
スパークプラグに関しては基本構造に大きな変化はありません。しかし、過酷な環境下でも確実に火花を飛ばすためのさまざまな工夫が、時代とともに施され続けています。
次回はこのスパークプラグについてご紹介します。お楽しみに!
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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