いよいよコンセプトマイニングのフェーズです。まずは、パーソナルニーズの抽出を行います。先ほど作成した自己実現山登り表を参考にしながら、ターゲットユーザーの経験価値(*)を抽出します。
*:「人は過去の経験を踏まえつつ、遠い将来の実現を目指すために、取りあえずの一歩の実現を考えて行動する」という仮説。
ここで、ユーザーが商品の購入に際して抱いている基本的感情がルーツニーズであり、ルーツニーズを満たすためにどのような行動をとっていると考えられるかをパーソナルニーズと言います。
続けて、対象商品の使用シーンの検討を行います。具体的には、ターゲットユーザー(この場合は「ゴルフ場の芝管理者」)が実際に商品を使用するシーンを考えるのです。自己実現山登り表の7合目(近い将来)のシナリオ、あるいは10合目(遠い将来)のシナリオを具現化するどのようなシーンが考えられるかをターゲットユーザーの立場になって発想する事が大切です。
そして、コンセプトマイニング表を以下の手順で作成します。
まず、パーソナルニーズと使用シーンの二元表を作成し、その対応関係を関連付けします。これでコンセプトマイニング表が完成します。
これにより、ターゲットユーザーが重要と考えているパーソナルニーズと それを実感できるシーンから、重点とするべきニーズとシーンが絞り込まれてきます。
重要と考えられるニーズに対応するシーンがない場合は、それを潜在ニーズととらえて無理にでも考え出すことにより、競合他社を圧倒する魅力的品質を付与することができるのです。
芝管理者が望んでいる商品コンセプトをキャッチフレーズ的に表現すると、「芝面に追従自在な軟体型芝刈り機が欲しい」ことが表から分かります。
コンセプトマイニング表で、芝管理者が望む商品コンセプトは「芝面に追従自在な軟体型芝刈り機」であることが明らかになりました。ところが売れる商品のためにと、あれもこれもと総花的になってしまうことを避け、メリハリを付けた商品コンセプトを設定することが重要なので、機能の追加、削減を戦略キャンバスにより決断します。これにより、顧客が求める重点ニーズの検討が容易になります。
ターゲットシーンから、「凸凹のあるアンジュレーションでも均一な高さに刈れる」ことが重点となるが、それを広い刈り幅で、一度刈りできれいに刈り高さをそろえて刈れることが必要であることが明確になりました。
続けて、品質表(QFD)による開発コンセプトのつくり込みを行います。コンセプトマイニング表から創出された要求品質、戦略キャンバスから得られた機能から図9のような品質表を作成します。
ここでは特に重要と思われる具体的な“こだわり品質”だけを挙げるので一般的な品質表のような展開表(階層構造)にはなりません。
コンパクトな品質表ですが、特に重要な要求品質だけを漏れなく抽出します。重点要求項目を選定する品質企画の検討では、一般的な品質表で検討する“セールスポイント”や“競合製品比較(ベンチマーク)”などを行わず、“(顧客)重要度”に集約して重点要求項目を判定します。
品質特性においても、重点要求項目に強く関係する特性について“開発目標値”や“開発難易度”、“重点開発特性”などを設定するのです。
「強いアンジュレーションの凸も凹も同じ高さに刈れる」や、「刈る方向にかかわらず、一度できれいに刈れる」が重要度の高い「a」ランクとして設定されている事が分かります。対応する品質特性は「芝面追従度」となり、芝面の凸凹に沿って追従して同じ高さに刈れることを表しています。
しかし、従来のリールカッターは長手方向に変形できず、下図のように中央が凸となった芝面では中央の芝高さが低く削られてしまって「芝削り」という最悪の状態になることもあります、
従来、芝を平面に刈るために自重でカッターが変形しないように剛性を持たせていたものを、芝面の凸凹に追従して変形できるようにするため、開発難易度は高く、BN(Bottle Neck)特性に指定されているのです。
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