人は、自身の記憶や体験を「1つの塊(かたまり:チャンク)」として持っているといわれます。このチャンクをほぐしていくコーチング技法が「チャンク・ダウン」です。
以下は、勉強会に参加した部下と、その上司のやりとりの例です。
【上司がチャンク・ダウンをしていないコミュニケーション】
上司 「昨日の勉強会はどうでしたか?」
部下 「はい、大変ためになりました」
上司 「それは良かった。学んだ内容を仕事に生かして頑張ってください」
部下 「はい、ありがとうございます」
【上司がチャンク・ダウンをしているコミュニケーション】
上司 「昨日の勉強会はどうでしたか?」
部下 「はい、大変ためになりました」
上司 「それは良かったですね。どういう点がためになりましたか?」
部下 「マーケティングについて学ぶことができた点です」
上司 「どのようなことを学んできたのですか?」
部下 「マーケティングの流れを学んできました」
上司 「具体的には?」
部下 「マーケティングは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの順番で展開していくことを学びました」
上司 「では今後、君はそれらをどのように仕事に生かしていきますか」……
このように、チャンク・ダウンすることで、部下が勉強会で学んだ内容の「塊」をより細かく表出できるように働きかけて、今後の仕事にその内容が役立てられるようにしていきます。
私たちは人にほめられて気分を害することは多くはないはずです。ただ、ほめ言葉は、発した人の価値観が大きく影響している場合があります。例えば、自分では仕事を頑張ったつもりがないのに「よく頑張った」と言われたり、大した成果を出していないのに「素晴らしい成果」だと言われたりした場合です。
ほめ言葉を発した人は「本当によく頑張った」「素晴らしい成果を出した」と思ってその言葉を発しているかもしれませんが、受け取る方としては違和感を覚えることがあります。「ほめ殺し」という言葉もあるように、「その言葉で自分を操作しようとしているのではないか」などと勘繰ってしまうこともあります。
そこで、「良い」という価値観については触れず、客観的な事実のみを述べることが「承認(アクノレッジ)」という技法です。図3にその例を示します。
「ほめる」という報酬は、人をコントロールする手段にもなり得ます。このように捉えられてしまうと、相手をいくらほめても相手のモチベーションが下がってしまいます。そこでほめ言葉に客観的な情報を加えることで、相手が自分の能力に自信を感じられるようにするコミュニケーションが必要になります。
リーダーシップについての理解を深め、自身のリーダーシップの在り方を振り返ることは、円滑なコミュニケーションを実現することへつながります。なぜなら、リーダーシップは「人々に影響を与えること」であり、そのためにはコミュニケーション力が必須だからです。
今回取り上げるリーダーシップに関する論点は、以下の3つです。
一般的にリーダーは、以下の6種類の力(社会的勢力)を持っているといわれます。リーダーはこの6種類のパワーをバランスよく発揮していくことにより、部下などに好ましい影響を与えることができます。
リーダーの中には、「強制勢力のみ」で部下を動かそうとする人もいるかもしれません。しかし、それだけでなかなか部下が動かない場合は、「他の社会的勢力の発揮がおろそかになっていないかどうか」を検証する必要があります。
ブレイク(R.R.Blake)とムートン(J.S.Mouton)が提唱した「マネジリアルグリッド」とは、リーダーの関心ごとを「部下のモチベーションや性格」といった「人間への関心」と、「売り上げや業務効率」といった「生産への関心」という2つの軸で捉え、さらに関心の度合いを1〜9とランク付けをした上で、5つのリーダーシップスタイルを導き出したものです。
ブレイクとムートンは「9・9型のチームマネジメント」が理想的なリーダーシップスタイルであると述べています。リーダーは現在のリーダーシップスタイルに偏りがないか、また関心そのものが低くないかを自己検証して、9・9型を目指すことがさらに有効なリーダーシップを発揮することにつながります。
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