第8回 モバイルDDR前田真一の最新実装技術あれこれ塾(2/3 ページ)

» 2012年12月18日 08時00分 公開
[前田真一実装技術/MONOist]

2. モバイルDDRの特徴

 モバイルDDRの特徴は低消費電力と小型化です。携帯電子機器は『小さい』、『軽い』、『薄い』が重要な性能になっています。このため、使う部品にも、『小さい』、『軽い』、『薄い』が強く求められます。モバイル機器は電池で駆動することが前提の機器です。機器を小さく、軽くするためには電池もできるだけ小さく、軽くし、しかも長時間動作することが求められます。このため、使用するICの消費電力はできるだけ小さくする必要があります。さらに、ICが使われていない時は自動的に動作を遅くしたり、止めたりして、電力消費を抑えるスタンバイ機能が必須になります。逆に、大型サーバや高性能ディスクトップPCのように可能な限り、高速に、メモリを多くという要求はなく、機器の目的と用途を絞り、機器のアプリケーションに充分なメモリ容量と速度があれば、それ以上の高性能化は要求されません。

 機器の小型化では、電池や機構部品はもちろんですが、メモリICに関しても小型化は強く求められます。究極の小型化はベアチップとなります。このため、モバイル用のメモリはKGD(Known Good Die)として、ベアチップでも流通しています(図4)。チップの大きさや形状はメモリベンダごとに異なり、また、同じベンダであっても、容量やプロセスの違いにより異なります。ベアチップの規格化、セットベンダでの取り扱いは困難です。

図4 ベアチップ 図4 ベアチップ

 このため、モバイルDDRの標準化では、CSPのマイクロBGAなど、小型で薄いパッケージングで、ピン配列も規格化しています(図5)。

図5 POP実装用μBGA 図5 POP実装用μBGA(クリックで拡大)

 メモリの実装携帯はASICなど、コントローラICの上にメモリを搭載するPoP(Package on Pacakge)実装やコントローラとメモリを同一パッケージ内で並べて実装するMCP(Multi Chip Package)が使われます(図6)。PoP実装やMCPしたものをパッケージングし、SiP(System in Package)とし、見た目は一つのLSIにしか見えないのが普通です。デジカメや携帯音楽機器、携帯電話などのモバイル機器では使用しているCPUの組み込み用CPUが使われ、使用しているソフトも汎用のソフトをいくつも走らせるわけではなく、機器をコントロールする専用の最適化されたソフトのみを動かします。使用しているOSも一般のWindowsなどのように汎用の重いソフトは使っていません。このため、モバイル機器に搭載されるメモリの容量はPCなどに比べ少なくなっています。

図6 PoP実装とMCP実装 図6 PoP実装とMCP実装(クリックで拡大)

 このためモバイルDDRでは、コントローラICに接続するメモリを基本的に1つに想定しています。もちろん複数のメモリを接続することは回路的には可能で、そのような接続をしている機器も多くあります。ただメモリを1つにすることにより、PoP実装が低価格で実現でき、回路的にも信号配線を最短にすることによって安定した特性の回路を実現することができます。

 メモリの消費電力を低減させるためにモバイルDDRメモリでは一般のDDRメモリに対して、多くの回路での工夫をしています。

 まず、最初に、電源電圧を下げます。CMOS回路では、電源電圧は変更することができるので、大きなIC内部の回路変更なしにICの電源電圧を低下させることができます。ICの電源電圧を下げるとICの消費電力は、電源電圧の2乗に比例して低下します。例えば、1.8Vの電源電圧を1.5Vに低下させると、消費電力は30%、1.2Vに低下させると55%低下します。

 ICの電源電圧を低下させると信号のノイズマージンが小さくなりってしまうので、信号のノイズを低減する必要があります(図7)。モバイルDDR機器では、小型高密度で、ICを実装することを前提とし、信号に配線長さを短く規定することによって、信号のノイズを低減させています。

図7 信号電圧とノイズマージン 図7 信号電圧とノイズマージン(クリックで拡大)

 また、接続するメモリの数を少なくし、原則1対1配線とし、また、信号の動作速度をできるだけ遅くすることにより、ノイズの発生を抑えます。配線長を短く、信号の速度を遅く、配線を1対1配線を基本とすることにより、ノイズを低減させられるので、終端抵抗を使わないでもデータ転送が可能となります。終端抵抗には電流が流れますから、当然、電力を消費します。終端抵抗を使わなくても良くなれば、終端抵抗で消費する電力を削減できるだけでなく終端抵抗で発生する熱も削減できます(図8)。さらに、終端抵抗を挿入する部品配置面積の削減、部品コストや、実装歩留まりからも多くのメリットがあります。

図8 終端抵抗は電力を消費する 図8 終端抵抗は電力を消費する(クリックで拡大)

 LPDDRでは、終端抵抗を追加しないことを基本としているので、通常のDDRメモリでは、DDR2メモリ以降、規格化されているODT(On Die Termination)と呼ばれるメモリICの中に終端抵抗を実装する機能(図9)はありません。しかし、終端抵抗を使わずに信号を正しく伝送するためにドライバの出力インピーダンスが多く用意されていて、消費電力を少なく、最適なドライバを選択できるようになっています。DDRメモリの消費電力を低減させる機能としては、Partial Array Self Refreshと呼ばれる機能があります。

図9 ODT(On Die Termination) 図9 ODT(On Die Termination)(クリックで拡大)

 DRAM(Dynamic Random Access Memory)は小さなコンデンサに電荷を貯めておくことにより、データを記憶しています(図10)。このため、電源を切るとコンデンサの電荷がなくなり、メモリの内容は失われてしまいます。さらに、電気を通電していても、時間とともにコンデンサに蓄えられた電荷は少しずつ失われ、時間が経つと、メモリの内容が失われてしまいます。

図10 DRAMはコンデンサ 図10 DRAMはコンデンサ

 このため、DDRメモリでは電荷か失われてしまう前に、一定時間ごとに、メモリの内容を再書き込みする必要があります。これをリフレッシュと呼びます。当然、このリフレッシュには、メモリのデータを読み込んで、データを書き込む動作を行うので、電力を消費します。DDRメモリはメモリデータを使っていない時でも常に読み書き動作をして、電力を消費しているのです。

 モバイルDDRのPartial Array Self Refresh機能はリフレッシュするアドレス領域をいくつかに分けて、消えても良いアドレス領域のデータに対しては、リフレッシュを行わずに、リフレッシュのための消費電力を低減する機能です。

 さらに、機器がスタンバイモードになり、メモリの内容を記憶しておく必要がない場合にはディープパワーダウンモード(Deep Power Down Mode)と呼ばれる機能を使ってリフレッシュを全面的に停止します。

 このように、モバイルDDRは

  • 消費電力を低減する
  • 実装を小型化する

ことを目標とし、通常DDRに比べ、

  • 実装するメモリの数を減らす
  • 速度を低下させる

などの制限をつけることにより、この目標を達成しています。

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