電気自動車「ボルト」、電池管理の秘密製品解剖(2/5 ページ)

» 2012年08月30日 10時00分 公開
[Stephen Evanczuk,EDN]

意外に難しい電池の制御

 シボレー・ボルトの走行性能や安全性、信頼性を実現するシステムは複雑だ。そうなった直接の原因は、リチウムイオン二次電池セルの特性にある。放電時には、グラファイト負極内にたまったリチウム原子が陽イオン化し、その後、電解質の中を移動していく。セパレータを通過して正極にリチウムイオンが到着し、その結果として電流が生まれる。充電時はこの流れが逆になり、リチウムイオンが正極からセパレータを通過して負極に達する。

 一連の化学反応の進み具合と電池の信頼性は、セルの温度と電圧に依存する。温度が低い場合には、化学反応がゆっくりと進み、セル電圧は低くなる。温度が上昇するにつれて反応速度が上がり、ついにはセルの破壊が始まる。100℃以上になると、電解液からガスが発生し、セル内部の圧力はガス排出弁が必要になるほどに高くなる。さらに高温になると、酸化物から酸素が放出され、温度上昇が一層加速し、熱暴走状態に入る。

 つまり、電池セルの動作条件を最適に保つことが、シボレー・ボルトの電池管理システムの最も基本的な要求事項となる。シボレー・ボルトに携わる技術陣が実現しなければならなかった課題は、車に搭載された電池セルの状態を監視し、制御するための信頼性の高いデータ収集と分析である。だが、リチウムイオン二次電池セル自体の別の性質が、この課題を困難なものとしている。

 リチウムイオン二次電池セルの特徴的な性質の1つは、一定の温度と出力電流レベルに対する出力電圧が、電池容量の中間領域にわたってほぼフラットになることだ(図2)。この性質は、電力源としてのリチウムイオンの利点を高めるものだ。だが、電池の残存容量、つまりSOC(State Of Charge)の情報を取得しようとすると面倒なことになる。セル電圧を測定するだけでは容量が分からないからだ。シボレー・ボルトの運転者は走行可能距離を知りたい。そのためには正確なSOCを推定できる仕組みがなければならない。実際、初期の電気自動車市場では走行距離がはっきり分からないために、販売台数が伸び悩む可能性があった。SOCを正確に推定し、それを運転者に通知する機能は欠かせない。

図2 図2 リチウムイオン二次電池の放電温度特性 パナソニックの「CGR18650CG」の特性を測定したもの。一般的なリチウムイオン二次電池セルでは、ある温度と電流出力レベルに対する出力電圧が、放電容量の中間領域にわたってほぼフラットになる。フラットになるという特徴は電力源としては有利な性質だが、残存容量を正確に推定しにくくなる。縦軸は電池セルの端子間電圧(V)、横軸は放電容量(mAh)。放電が始まると、電圧はゆっくりと下がり、水平に近いなだらかな傾きで低下し続けて、最後に急激に降下する。出典:パナソニック

SOCは電池の寿命にも影響する

 電池の寿命を延ばすためにも、SOCを一定の範囲に保つことが重要だ。SOCが低過ぎたり高過ぎたりする状態が続くと、SOCを中間レベルに保った場合に比べて電池の劣化が速く進む。適切なSOCの範囲は、一般的には実験を重ねることで分かる。電池セルを、過放電させると構成部品が劣化し始め、回復できなくなる。推奨の上限電圧を超えて充電すると、電池セルが過熱したり、不可逆的に構造が変化してしまう。

 GMの技術者は、シボレー・ボルトに最適なSOCの範囲を58〜65%と定めた。運転モードに合わせて、平常運転モードではSOCの下限を30%に、「山岳走行」モードでは坂道走行に必要な容量が残るよう下限を45%に設定している。電池のSOCが設定下限に近づくと、ガソリンエンジンが稼働し、モーターに電力を供給するための発電機が動き始める。

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