ただ、そうは言っても新しいデバイスに課題は付きものです。やはり、Android搭載ドングル型コンピュータにも幾つかの重要な課題があります。これらを解決して、はじめてサービス展開が可能になります。
以下に解決すべき代表的な課題を示します。
特にコンテンツを扱う際に、必ず検討しなければならないことが2つあります。それは「セキュリティ」と「品質」です。
コンテンツサービス事業は、コンテンツホルダーと契約してコンテンツを入手し、それを視聴者に届けます。その際、コンテンツを抜き取られてファイル共有されたり、転売されたりすることが、コンテンツホルダーにとって一番の脅威となります。通常Androidには、そのような不正を防止する機構は備わっていません。そのため、いわゆるJailbreak(脱獄)を検出するような対策が別途必要になります。
サービスとして課金している以上、ある一定の「品質」でコンテンツを配信しなければなりません。そのコンテンツが時々止まったり、乱れたりすると、「品質が悪い!」「金を返せ!」と非難が殺到し、サービス自身の危機になり得ます。品質を低下させるさまざまな原因の中には、「無線ステーションが乱立していて通信の品質が悪い」など、対策が困難なものもありますが、サービス事業者として可能な限りの対策は講じなければなりません。
芸がないと言えなくもないですが、HD(High Definition)のような精細度はデータ量も多く、現在のコンピューティング環境では品質を確保しにくいため、「上限を設ける」といったことも立派な対策になります。LAN環境において複数のコンテンツ利用がある場合、その中の1つがネットワークを専有してしまうと他のコンテンツがまともに視聴できなくなるということがあります。こうしたケースでは、例えば、個々のネットワーク利用に上限を設定できる技術を適用することで、利用者全員が問題なくコンテンツを視聴できるようにする必要があります。
さらに、視聴時の品質ではありませんが、システムの高速起動などのソリューションも必要になるでしょう。ドングル型コンピュータは一般的なSTBと比べると非力であり、起動に時間がかかるためです。
もっと深刻なのは「熱」の問題です。これは「形状/デバイスのつなぎ方」にも関係してきます。ドングル型コンピュータは、ぎりぎりまで省スペース化を図っていますから、集積度が高く(画像5)、放熱しにくい(当然ファンはない)という課題があります。現在、既に数多くのドングル型コンピュータが登場していますので、その中から特に熱の問題を解決している/熱対策を施しているものを選択する必要があります。
テレビとの接続のためだけに、HDMIケーブルを常に持ち歩く気にはなれません。できれば、電源はUSBケーブルを介して確保し、HDMI入力端子にデバイスを直接挿したいところです(画像6)。しかし、テレビによっては筐体が干渉してうまく挿せないといったこともあり得ます。実際、利用するシチュエーションをよくイメージして、そぐわない形状のドングル型コンピュータを選ばないよう考慮しなければなりません。
他にもコンピュータに詳しくない一般ユーザーでも直観的に「操作/入力」できるインタフェースを検討しなくてはなりません。使い勝手が悪いと、サービスそのものの印象を悪くするだけでなく、「品質が悪い!」とも言われかねないので気が抜けません。
解決すべき課題はまだまだ山積とも言えますが、このようなデバイスが数千円で買える時代になったことは大いに歓迎すべきです。本稿で紹介したポータブルマルチメディアサービスでの利用は有力な展開先の1つですが、アイデア次第でもっと世の中が便利になるような使い方が見つかるかもしれません。実際にAndroid搭載ドングル型コンピュータを手にして、検討してみてはいかがでしょうか。
金山二郎(かなやまじろう)氏
株式会社イーフロー 第1事業部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。
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