中のバッテリーは、米コンコルドのAGM型鉛蓄電池だ。同社は軍事/宇宙航空向けのバッテリーを長く製造しており、潜水艦やスペースシャトルといった、発電不可能な状況に置かれる機体の動力源として、使用実績がある。
AGM型というのは、電解液を細かいガラス繊維を幾層にも重ねてフェルト状にしたガラスマットに吸収させて、内部に保持する構造だ。通常の鉛電池と違い、外部に電解液が飛散しない。
また内部で発生する水素ガスも非常に少なく、通常の鉛電池が3%以下であるところ、この蓄電池の場合は約1%程度しか放出しないという。さらにこの水素ガスは、使用サイクルの過程で水になるため、安全性が高い。バッテリーそのものは完全密封されており、途中で電解液を補充する必要もない。
一般に鉛電池は安価だが寿命が短く、2〜3年で交換となるが、コンコルド社のバッテリーは8年程度の寿命がある。自然放電も少なく、全く使用しない状態でも1カ月で1%程度しか充電容量が低下しないという。
これだけ特殊なバッテリーだと、価格もかなりなものになると思われるが、幸いにも現在は円高が続いている関係で、低価格で提供できているようだ。
フロンティアオーズが鉛電池を採用した理由は、もちろん価格と特性の良さもあるが、リサイクルの観点からの利点も大きい。同社では実際にはリチウムイオン二次電池の採用も検討したそうだが、リチウムイオン二次電池の場合はリサイクルといっても希少金属を回収するぐらいで、中身はほとんど廃棄となる。一方鉛電池は、分解して再構成した後に、フォークリフトなどの重機用バッテリーに作り替えることが可能だ。
ただ難点は、重量である。もっとも売れ筋は「E-5000」だそうだが、これでも重量が148kgにもなるため、納品はかなり大変だ。家屋2階などに設置する場合は、別途設置料金が必要になるケースもあるという。
元々キャンピングカー用だったENEBOXは、非常用電源としてどういうところに納品されているのだろうか。同社 主任 櫻井伸祐氏に伺ったところ、震災後、まず最初に引き合いがあったのは、病院だという。
大病院であれば、計画停電の対象外となる。ところが中小規模の市井のクリニックや医院となると、そこまでの配慮はない。そこである小児科では、ワクチンを保存する冷蔵庫の非常用電源として使われているという。
というのも、ワクチンはものにもよるが1本1万円程度と高価なものが少なくない。これを大きな病院では500本ぐらいを常備しているのだそうである。それだけでも500万円になるわけだが、命にかかわる医療の現場において、問題は金額的な損害ではなく、緊急対応のためであり、同時に品質管理のためである。
こうした医療機関がENEBOXを選択した理由は、UPSが入っているからだ。導入の経緯の1つとして、計画停電が実施されたときにこんなエピソードがあったそうだ。
ある病院に隣接する調剤薬局では、既に別のメーカーの非常用電源を設置していたのだが、この製品は電源が切り替わるのに時間がかかるものだったという。それで、実際に計画停電にあったときに、非常用電源があるから大丈夫だと安心していたところ、いざ開けてみたら保管用冷蔵庫の電源が切れていた。確かに電源は切り替わってはいたが、途絶時間が長いため、保管用冷蔵庫のマイコンが自動的に電源が遮断されたものと判断して、電源を落としてしまったらしい。その後で、非常用電源から電力が供給されても、電源はオフのままである。
利用者にとって、非常時における電機製品の挙動をあらかじめ把握するのは至極困難なことだ。このような問題は、実際に使ってみないと分からない部分だろう。今回の問題を受けてこの薬局では、同じ保管用冷蔵庫でENEBOXをテストしてみたのだという。そうしたところ、短時間で電源が切り替わり、電機製品は問題なく動き続けることを確認できたため、ENEBOXに交換したという。
この実績がクチコミで拡がり、計画停電を体験した病院、研究所、大学の研究室など、保管用冷蔵庫があるところで次々に導入が決まっていった。
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