中国は外資系第2次産業を“締め出す”フェーズに現地レポート

日本貿易振興機構(JETRO)中国・青島オフィスの担当者に中国国内市場の状況、日系企業の動向を聞いた。

» 2012年05月22日 10時40分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]

山東省における日系企業の現状

 「日本人向けの住環境はよく整っています」(日本貿易振興機構 青島オフィス 副部長 瀬戸仁志氏)

 山東省全土を管轄する日本貿易振興機構(JETRO)青島オフィスは、青島市市街地の高層ビルの一角に位置している。同じビル内には日本企業のオフィスが多数みられ、また、同ビルの正面には日本の大型スーパー「ジャスコ」が出店している。そのすぐ近くには、コンビニエンスストア「ミニストップ」が店舗を構える。



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 ジャスコには日本人向けの食料品が豊富に揃っており、この地域での日本人の多さがうかがえる(韓国系企業も多く進出しており、人口としては韓国籍の人々のほうが多い)。現地の特産物である鮮魚などの海産物が入手しやすい点も日本人の好みに合っているだろう。

 2011年末における青島市内の日系企業数は798社*。このうち、比較的古くから進出してきたのが、繊維系および食品加工系の企業だ。日系ではないものの、三洋電機からの事業譲渡と日本市場進出で話題になった中国電機大手のハイアールの本社が市内にある。


*外商投資企業会へのJETROのヒアリングによる。


build JETRO青島オフィスの入居するビルには、日本の商社、銀行などの現地オフィスも入居している
ministop ジャスコもミニストップも、今後、山東省内における大規模出店計画を打ち出している

青島地区の賃金上昇率

 青島市は、多くの中国沿海部と同様に、賃金の上昇率が依然として高い。下の表は2007〜2011年の賃金上昇率だ。毎年、10%前後上昇している。

2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
従業員平均賃金(年間、元) 2万1419 2万3296 2万5396 2万8549 3万2763
従業員平均賃金上昇率 15.3% 8.8% 9.0% 12.4% 14.8%
平均年間賃金(統計公報を基にJETROが独自に作成したもの)

 「現在では機械加工系の企業の中国進出は一巡した印象です。低賃金での生産を狙った中国進出は既に過去のもの。現在は中国国内の需要拡大を狙った大規模投資案件が多くなっている」(瀬戸氏)

 報道されないところでも、労働争議はよく発生している。JETROではこうしたトラブルへの対応支援も頻繁に行っているようだ。中国の労働法は先の記事でも紹介しているように、労働者保護の視点が強い。「労働者保護に拠っていることに加えて、女性性を守る法律に関連する規制が厳しく、JETROへの相談が多い案件」(瀬戸氏)だという。日本でも同様の法制はあるが、経済状況のいかんにかかわらず、簡単には解雇できないルールが幾つかある*。

 撤退が難しいこともあり、既存の進出企業も現地法人を、輸出拠点ではなく、中国市場のマーケティング拠点として活用するケースが目立つようだ。


* 中国における労働者保護に関する規制動向は「中国で中小企業が優良な人材を確保するポイント」でも若干触れている。


内需シフトで、中国の国内市場を狙う企業が増えている

 これまで外資を積極的に誘致して「世界の工場」になることで、発展を続けてきた中国は、2011年3月の全国人民代表大会(日本の国会に相当)で、第12次五カ年計画を採択した。

 2011年からの5年間の基本政策を決定するもので、以前からうわさされていた通り、GDP成長率よりも可処分所得の成長率を高く設定するなど、内需主導型の成長戦略が明確になった。

 「現在、中国は全土で、外資系の第2次産業(製造業全般、工業、建設業など)を“締め出す”フェーズに入ったと見てよいでしょう。今後は国内企業やサービス産業育成により多く投資していく見込み」(瀬戸氏)

 従来は外資系の企業誘致のために積極的な優遇策をとっていたがそれも今後は期待できない状況ということだ。一方で、サービス産業や、先進技術を持つ企業の誘致については継続的な優遇策をとっている。

 日本総研 調査部 佐野淳也氏がまとめた内容から引用すると、第12次五カ年計画では、7つの「戦略的振興産業」が示されている。

 (1)省エネ・環境保護、(2)新世代情報技術、(3)バイオ、(4)最先端の製造業、(5)新エネルギー、(6)新素材、(7)新エネルギー自動車の7業種だ。取材でも、これらの業種に関連する外資系企業誘致には優遇措置が継続されており、新規参入を検討する日本企業が多いとのコメントを得ている。



 「青島市政府は、環境技術系の先端技術を持つ企業の誘致などに力を入れている。また、中国全土でハイテク系企業へのは税率優遇が継続している」(日本貿易振興機構 青島オフィス 副所長 山本諭氏)

 実際に、山本氏は現在、汚泥浄化の技術を持つある日本企業の中国進出支援を進めているところだという。現地企業の技術向上に役立つ企業への門戸は広い。

 「コスト面の利点だけを狙った進出をしてきた企業は早々にASEANなどの地域に移っている。現在も残っている企業はあくまでも中国国内市場を狙っている」(瀬戸氏)

高齢化社会目前の中国市場を狙った医療系製造業の進出

 「サービス産業という視点でいうと、急速に高齢化が進んでいることから、医療機器系の企業の進出も増えている」(瀬戸氏)という。

 下に中国の人口ピラミッドを示す。図を見ると分かるように2050年には60代前後の世代が最も多くなり、高齢化が急速に進むことが分かる。

中国の人口ピラミッド 中国の人口ピラミッド ここでは中国国家統計局の調査資料をもとに2050年の人口構成を推定したデータを参照している。推定方法は元資料を参照。(出典:Baochang Gu, Yong Cai; Fertility prospects in China, United Nations Department of Economic and Social Affairs Population Division Expert Paper No. 2011/14)

 瀬戸氏によると、直近でも透析系の医療装置メーカーが中国国内市場での需要増加を見越して製造拠点の設置に乗り出しているという。

 「もともと繊維加工系の企業が多かったため、繊維工場の設備をそのまま透析向けの製造に振り向けているようだ」(瀬戸氏)

日本進出企業のサポート業務も

 JETROといえば、日系企業の海外進出を支援する組織という印象が強かったが、最近では現地企業の日本進出を支援する活動も若干ではあるが増えてきているという。日本での企業視察コーディネートや、JETROが持つレンタルオフィスへのあっせんも行っている。

 「日本に研究開発拠点を置きたいという要望は、以前は年に1件あるかどうかだったが、直近で3件程度の問い合わせがあった。絶対数としては多くはないが、増加傾向にあるといえる」(山本氏)

統計では見えないもの

 取材後半、山本氏は現地視察の重要性を強調した。

 「この資料を見ると青島のGDPは大連よりも上。ただし、実際に現地を見た印象は必ずしもそうではない。統計に表れない現地の状況は、やはり肌で感じてもらうしかない」(山本氏)

 該当部分を引用しよう。表は国家統計局および各市統計局の発表した数値をもとにJETRO青島オフィスがまとめたものだ。

都市 GDP(億元) 青島を1とした場合の倍率 実質成長率(%)
青島 6615 1.0 11.7
北京 16000 2.4 8.1
上海 19195 2.9 8.2
大連 6150 0.9 13.5
広州 12303 1.8 11.0
全国 471564   9.2
都市別のGDP比較(2011年、国家統計局および各市統計局発表の数値による比較)


都市 可処分所得(元) 青島を1とした場合
青島 2万8567 1.0
北京 3万2903 1.2
上海 3万6230 1.3
大連 2万4276 0.9
広州 3万4438 1.2
都市部の1人当たりの可処分所得(2011年、各市統計局発表の数値による比較)


 「統計では青島は大連よりも豊かであるといえます。しかし、実際に両方の都市を見た私からいえば、大連の方が都会であり商業も盛んだという印象です。年度によって数値の集計方法が異なることもありますから、統計資料はあくまでも参考にしかなりません。ぜひ、JETROオフィスへ問い合わせて訪問していただきたいと考えています」(山本氏)

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