それでは、解説に入りましょう。
安全率とは、図1に示すように、使用条件の不確実さや、材料の予期しない欠陥や、製造品質のバラツキや、単純な形状にモデル化した応力計算値と実際との相違に関して諸要因のバラツキを補うものです。
いずれも、許容できる最大の値を超えないことを目的として、寸法や形状を工夫して決定する必要があるために設けられた設計上の指標です。
安全率の公式
まず、許容応力σaは、荷重の条件によって定められる材料の基準的強さ(基準応力)σsを、安全率fで割った値として与えられます。
σa=σs/f
安全率 f=σs/σa
良君! 解説してくれるかぁ!
僕は、こういう説明は得意中の得意なんです。「σs」という基準応力については、表1を見てください。ただし、この資料は絶対的なものではありません。あくまで技術者のための“目安”です。
もう一度、「設問−1」の「回答−1」を見てみましょう。「基準応力σs=σB×2/3=450×2/3=300 N/mm2」となっていますが、表1における設定条件が「繰返し返し荷重」であり、材料が「SS400」の鋼材ですので、「×2/3」となっています!
良君! オレサマもよく理解できたぜぃ! あんがとよ。
すみません! 僕としたことが、繰り返し荷重における「×2/3」を忘れていました。学校のテストでは、「×1」でもOKかもしれません。あ、図2もあくまで技術者のための目安として見てくださいね。
以下に、安全率の一般的な値を以下に示します。
安全率の一般例
- 航空機:1.5
- 自動車の破壊:1.6
- 自動車部品の降伏や疲れ:1.3
- 鉄骨構造:2.5〜3.0
- クレーン:8〜10
- クランクシャフト:40
思い出したぜぃ! 昔、オレサマの兄貴が言っていたがよぉ、メカ屋が設定する基本的安全率は、「1.3」から開始しろ! ……ってなぁ!
その通りです。筆者がまだ若い設計者だった頃、先輩から「安全率は1.3以上」と教わりました。例えば、ギアの歯元の安全率、ステッパー(ステッピングモータ)の選定、ファンの寿命、回転シャフト、軸受などです。
ただし、これは表1における静荷重の場合であり、繰り返し荷重や交番荷重、そして、表1には記載がありませんが、「瞬間荷重(衝撃荷重)」の場合は、企業が重要機密の扱いで独自に設定します。
安全率の設定を誤れば、人身事故は当たり前でしょう。従って、どこの企業でも安全率は、設計審査の定番になっているのです。
しかし……。
安全率は、「率」ゆえに、いくらでもごまかせることができる「曲者(くせもの)」なんです! その一例が、以前あった建築士の構造計算書偽造問題。新聞や週刊誌で騒ぎになっていましたね。
「メカ屋の安全率は1.3以上」……甚さん! それは、メカ屋の実務ノウハウですね! 甚さんが愛している零式戦闘機の機体の安全率は「1.3」と言っていましたね。
おぉ、そうよ! よく覚えているじゃねぇかい、あん。そして、もう引退したボーイング747の機体安全率は、軽量化技術が進化して、「1.1」だ。しかし最近、ちょいと不思議に思っていることがあってなぁ。
それは、防災が役目である各機器類や設備に関することです。
例えば、東日本大震災時の防波堤の高さや津波の高さがニュースや新聞で語られています。高さを示す「m(メートル)」の表記ばかりで、「安全率」の単語が記載された報道や記事を筆者は見たことがないのです。
ん? 筆者の調査不足じゃねぇのかい?
そうだと祈りたいところです……。
さて、ここで技術者として安全率に関する重要なキーワードを解説します。それは、以下に示す2つです。
- 「破壊に対する安全率」=(引張り強さ)/(許容応力)……(式1)
- 「変形に対する安全率」=(降伏点)/(許容応力)……(式2)
「式1」に関する分子には「引張り強さ」、別名で「極限強さ」を持ってきます。この別名からは、「これ以上の応力を印加したら、もう破壊するぞ!」「これがオレの極限だぞ!」と思いながら暗記しましょう。例えば、あるチェーン(鎖)の使用目的が、「破断、破損しなければよい」という場合は、「式1」が適用できます。
一方、同じチェーンでも破断や破損どころか、変形しても困るという場合も多々あります。この場合は「式2」を適用します。つまり、分子には「降伏点」を持ってきます。この名からは、「これ以上の応力を印加したら、もう変形して降伏するぞ!」「これが“変形しない”ための最高値だぞ!」と主張している感じを思い浮かべつつ記憶しましょう。
僕がビジュアル化してみますよ(図2)。
安全率とは、「率」ゆえに、どうとでもなってしまうのです。なので、単に安全率のことを漠然と質問するだけではいけないのです。安全率を議論するときは必ず、分母と分子について尋ねましょう。
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