カクカクした形状しか作れないと思われがちな切削加工。でも実は、複雑な曲面の形状も製作可能だ。でも高くないの?
この連載では、切削加工のキホンを踏まえて、駆け出しの機械系設計者さんが陥りやすい機械加工部品のポイントをご紹介しています。
前回までは切削加工屋さんの観点から、「こういった形状は困る!」「もっとこういう形状にすれば安くなるのに!」といった内容をお伝えしてきました。今回は少し目線を変えて、「切削加工でこんなこともできる!」という部分をお伝えしましょう。
切削加工というと、工業製品用のカクカクした無機質な部品ばかりのイメージがあるかもしれませんが、実はクネクネした曲面形状など意外といろいろな形状を実現できるんです。今回は現在のコンピュータ制御による切削加工によって、複雑な形状を実現していく過程を紹介しながら、いろいろな“不思議形状”を紹介します。
筆者より:この連載記事の表現においては、表記や定義の厳密性よりも、まず“切削加工のイメージ”を分かりやすく直感的に伝えていくことを優先しています。
これまでに何回も出てきていますが、切削加工は回転する刃物を設定された軌跡に沿って素材に押し付けて削り取り、不要な部分を除去する加工です。
それでは、「設定された軌跡に沿って」というのは、どういう意味でしょうか。いままで曖昧な表現のままにしてきましたが、切削加工では非常に重要な部分ですので、少し詳細に説明していきますね。
汎用(はんよう)フライスなどの「手で操作する」汎用工作機械のことは、取りあえず置いておいて、NCフライスやマシニングセンタなどのいわゆる「自動で操作する」NC工作機械を想定して話を進めていきます。
このような機械では、素材を削る刃物(エンドミル)は、機械への命令言語(NCプログラム)によって動きます。「エンドミルを“この位置に”動かせ」という命令を機械に入力すると、その命令通りに機械が自動で動きます。エンドミルの位置というのは、X、Y、Zのそれぞれの数値で表現されます。この数値をプログラムに沿って動かす(制御する)ことで加工を進めます。
NCフライスの「NC」は「Numerical Control(数値制御)」という意味です。「X」は「左右方向」、「Y」は「前後方向」、「Z」は「上下方向」の空間上の位置をイメージしていただければ結構です。
「次に移動する位置」を連続的に入力していくことで、スムーズな曲線や複雑な軌跡を描いてエンドミルを動かすことができるんですね(図1)。
逆に言えば、機械は入力された命令(=NCプログラム)通りにしか動きません。どんな形状にでき上がるかは、入力するNCプログラム次第ということです。
コンピュータが発達する前は、専用の紙テープにNCプログラムを打刻したものを機械に通して読み込ませていたそうです。ベテランの職人さんがNCプログラムのことを「テープ」というのはここから来ているようです。
現在では、コンピュータ上のデータとして、NCプログラムを扱っています。機械のメモリにNCプログラムをデータとして格納し、それを命令として1行ずつ読み込みながら、その命令内容に従って動きます。
NCプログラムはどの工作機械でも基本的には共通した構成でできています。「Gコード」や「Mコード」などと呼ばれる主軸を回転させたり、動く速度を変えたりといった「機械の動きをコントロールする部分」と、X、Y、Zの座標値として「エンドミルの先端位置の指令値を与える部分」の組み合わせで成り立っています。
ここで、簡単なNCプログラムの例をご紹介しますね。102mm角の素材を直径10mmのエンドミルで外周を1mmずつ削って、100mm角にするプログラムになります。素材の原点からみて、エンドミルの半径分5mmを足し合わせた位置がエンドミルの中心位置となります。この場合は、素材の原点に対して55mm離れた位置をエンドミルの中心が回るイメージですね。
O0001; : NCプログラムの名前 T01 M06 : 1番のエンドミルを呼び出し 1 G90 G54 G0 X0 Y0; : 素材の座標系(G54)の原点(X=0,Y=0)に移動 2 X55.0 Y60.0; : 初期位置(X=55.0, Y=60.0)に移動 3 Z-30.0; : Zを加工位置(Z-30.0)に移動 M03 S2000; : 主軸を回転数2,000RPMで回転開始 M08; : 切削液の噴射を開始 4 G01 Y-55.0 F100; : Yを-55.0まで速度100mm/minで移動 5 X-55.0; : Xを-55.0まで移動 6 Y55.0; : Yを55.0まで移動 7 X60.0; : Xを60.0まで移動 8 Z100.0; : Zを100.0まで移動(退避) M30; : NCプログラム終了
「穴を開けるだけ」とか、「直線的に刃物を動かすだけ」といった簡単なNCプログラムは簡単に作成することができますが、「曲面を削る」などの複雑なNCプログラムは、職人が頭で考えて手で入力できるレベルを超えてしまいます。
こんなときに活躍するのが、いわゆる「CAD/CAM」という仕組みです。「CAD/CAM」というのは、「Computer Aided Design」および「Computer Aided Manufacturing」なので、要は「コンピュータを活用して設計や製造をすること」の総称です。
現在では狭義の意味として、CADはコンピュータ上で図面や3次元モデルを作成するソフトウェア、CAMはCADデータなどを利用してNCプログラムを作成するソフトウェアを指しています。
複雑なNCプログラムを作成するためにも、コンピュータの支援が必要なんです。1つのソフトウェアでCADの機能もCAMの機能も兼ね備えたものもありますし、それぞれ単独の機能のソフトウェアもあります。
CADについてはいろいろなサイトで詳細に取り上げられていますので、ここではあまり設計者サイドが意識することのない、CAMについて少し詳細にご説明します。
3次元CAD/CAMを利用する切削加工の基本的な流れは以下の図3の通りです。
上記のように、CAMは3Dモデルをインプットすると、その形状を加工するのに必要なNCプログラムをアウトプットするというソフトウェアなのです。
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