ホンダは水素燃料電池車を普及させるために、水素の製造から一貫して取り組んでいる。小型化が可能な製造システムを埼玉県庁に設置、家庭に6日分の電力を供給可能な燃料電池車「FCXクラリティ」と組み合わせた実証実験を開始した。
燃料電池車(FCV)が広く普及したとき、何が課題になるのだろうか。まずは燃料となる水素だろう。水素は天然資源ではないため、別の物質から作り出す必要がある。現在量産されている水素は、液化天然ガス(LNG)の改質や、ガラス工場の副生物、製鉄副生物などによって得ている。
これとは異なる方式も考えられる。ホンダは太陽電池で電力を得、「水」を電気分解して水素を作るという手法を追求している。目的は、製造時から貯蔵、供給まで全てのプロセスで二酸化炭素(CO2)を排出しないことだ。太陽電池で効率良く水素を作り出すことが水素燃料電池車の普及につながるということだ。
2012年3月27日には、埼玉県庁*1)にガソリンスタンドに相当する「ソーラー水素ステーション」を設置、燃料電池車「FCXクラリティ」と組み合わせた2年間の実証実験を開始した(図1)。
「県庁の屋上に最大出力9kWのCIGS薄膜太陽電池モジュールを設置、系統電力と合わせて水素を作り出す仕組みだ」(ホンダ)。
*1) 同社と埼玉県は、「環境分野における協力に関する協定」を2009年3月に締結。2010年12月から電動化技術や情報通信技術などを活用し、将来の低炭素モビリティー社会実現に向けた実証実験を続けている。今回の実証実験もこの一環である。
ホンダの水素製造手法は「差圧式高圧水電解システム」と呼ばれている。通常の電気分解では生成した常圧の水素をコンプレッサーで圧縮して水素タンクに蓄える。ホンダの手法はそもそも高圧下で水を電気分解するため、コンプレッサーが不要になる(図2)。システムを小型にでき、騒音も小さくなる。水素ステーションを広く普及させる際に役立つ特長だ。同社は家庭用の水素ステーションの普及を狙っているため、このような技術を開発した。今回は日本国内初の設置事例である*2)。
*2) 同社は2010年1月から、米Honda R&D Americasで、差圧式高圧水電解システムの実証実験を続けている。「今回埼玉県庁に設置するために、例えばパイプやタンクの内容積の数値などを国内法の規制に適合させている」(ホンダ)。
水素製造能力は、24時間当たり1.5kg。これはFCXクラリティが150km走行できる量に相当する。
埼玉県に納車したFCXクラリティも従来品とは異なる(図3)。車体のフロント側に新たにインバーターボックスを追加して、交流100Vのコンセントを利用できるようにした。「9kWの出力を7時間連続で出力できる」(ホンダ)。これは一般家庭が消費する電力の6日分に相当する電力量だという。
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