「純・喧嘩ゴマ」を持ち込んだチームが、もう1つ。バネメーカー 五光発條だ。
「主催者である緑川さんのキラキラ光るまなざしに魅せられ参加しましたが、今回のコマ大戦は本当に日本でのモノづくりの根っ子である『こだわり』や『可能性』、そして『楽しさ』を皆に思い出させてくれました!」。そう話したのは、五光発條の代表取締役 村井秀敏氏。「優美なコマらしからぬフォルムから繰り出されるハプニングな軌道」がウリだという。
試作個数は6個で、材質は「その辺にあった端材」だったSH鋼。
「ベアリングを使った2重構造による独自システムとしました。2段構造は、21社中で当社だけだと思います。本来の力を発揮できれば話題独占だったでしょう。長く良く回るコマの形状が多い中、“真の喧嘩ゴマ”は、まだ他社が気づいていない優れたポイントがあると思います。それから、回し手のウェイト(グリップ力)は相当重要だと実感しました」(村井氏)。
「1個1円に満たない価格や、千分台(1μm)の公差で鍛え上げられたバネ屋40年の意地とプライドをかけて、第2回大会優勝目指して頑張ります!」(村井氏)。
前々から精密ミニチュアコマを製作・販売していたこともあり、事前から優勝の可能性は高いと言われた由紀精密。その予想を裏切らず優勝となったが、大会直前までコマの仕様を詰めていたという。
同社が試作していたタングステン製コマの試作は、硬い盤面ではうまくまわったものの、ケミカルウッドのような柔らかい盤面ではうまく回らないことが判明してしまったとのこと。摩擦力の違いの影響が、思っていたよりも大きかったということだ。しかもそれに気が付いたのが、大会直前。
大会が差し迫っていたこともあり、コマの先端部だけをテフロン製に変更。これにて問題は無事解消されたという。さらっと優秀なコマを作ってきたように見えて、何気に危機一髪だったというわけだ。
「板金屋さんが次回から挑戦しやすくなればいいと思いました」と話したのは、板金加工業のリ・フォース代表取締役 椛沢英一氏。
コマ製作においては、板金加工では、切削加工には勝てないだろう。そう考えた椛沢氏は、「参加することに意義あり」ということで、板金加工を駆使して「対戦相手を弾き飛ばすタイプ」の喧嘩ゴマを作ろうと試みた。しかし、板金では重量が稼げないことに気が付いてしまう。しかし、それでもやるしかない。
板金加工でくりぬいた本体の真ん中にタップを切り、そこに先端をとがらせたネジを組み込む構造になっている。同社には切削加工機がないため、ネジ製軸の先端をとがらせる際には、電動ドリルに軸を取り付け、ベルトサンダー(研磨機)に押し当てて加工した。
本体の板金部は増減ができ、重心の調整も可能だ。しかし、ベストコンディションの再現性がなく、調整に苦労したとのこと。コマ大戦当日も、残念ながら調整がうまくいかず、初戦敗退。
「次回参加するには、もっと新しい発想をしなければいけないですね」(椛沢氏)。
新栄工業は、一切の切削加工を使わず、自社のワイヤー放電加工設備でコマの外形を幾つも作り、それらをはめ込んで構成したコマを試作。結局は、本体部を2枚としたコマで参戦した。
「切削のプロの方々が多数参加するので、そこで切削で真っ向勝負しても、面白くさえならないだろうと思って(笑)。自社の得意とする技術を使い、心意気だけで勝負しました」(新栄工業 中村新一氏)。
心技隊チームは事務局長であるエムエスパートナーズの代表取締役 伊藤昌良氏が代表に。エムエスパートナーズは商社で、自社で製作をしているのではない。“商社”という特徴を生かすべく、同社と付き合いのあるナカジマに組み立て品のコマの製作を依頼した。アルミニウム青銅製、アルミA7075製の部品で構成している。つまみ部は伊藤氏が改良している。
ナカジマ自身も出場。形状はシンプルなUFO状なコマだ。アルミニウム青銅の丸棒にマグネシウムの丸棒を圧入し、マシニングセンターで加工した。今回は残念ながら、結果が振るわず。次回は全社員を開発に参加させ、勝ちにいきたいとのことだ。
金属加工メーカー ダイショウのコマは、その形状から「おちむら金属と同じ、逆さゴマか」という声があったが、実際は丸いフォルムなだけで逆さゴマではなかった。コマらしいコマが多数あった中で、このような形状は目立つ。
コマ大戦の第1戦目は、「一技専・機械工学科」「秦野高等職業技術校」が登場。数少ない学校チームだ。第1回の記事でも、心技隊のおかしら(ミナロの代表取締役)緑川賢司氏は学校チームの参加はうれしいと述べていた。
もう1校、棄権してしまったデジタルハリウッドも、第2回の再チャレンジを期待したい。
長野県岡谷市の経営者が集まる異業種交流グループ「NEXT」もS45C製のコマで参戦! 「1社ではできないことも、NEXTとして力を結集すれば、いろんな可能性がある」という理念で活動しているが、心技隊やこのコマ大戦が持つ思いとも共通する部分だ。
メディア代表で、日刊工業新聞社が参戦。新聞社らしく、日々取材を通じて交流している大田区製造業の皆さんとコラボして、慣性ゴマを製作。
第2回は、MONOistからも参戦せねば! 編集部は過去、ETロボコンなら出たことがあるので、きっと、どうにかなる……はず。
ケミカルウッドの箱に納められたコマたちのコストは、全て合計すると、なんと「高級車が1台買える程度」にはなるという。コマ大会参加にあたり、製作原価を数十万円も掛けたという企業もあった。しかし、これも職人たちの本気の1つの形。仕事も常に本気だが、楽しむときも常に本気! ということだ。
この大会に参加した企業たちは、「リーマンショック後に、仕事ゼロ」など厳しい状況を経験した企業もあったり、いまも景気がいいとは言い難い状況という企業もある。東日本大震災で被災した企業もあった。しかし、コマづくりや対決を皆、心から楽しんでいた。
誰もが好き好んで「つらくて苦しい」選択をしているわけではない。やはりみんな、本音では「楽しくて面白いことが、大好き!」。まさに、それを実感させられるイベントだった。たまには「楽しくて面白い」モノづくりと真正面から向き合うことも、日々の厳しい状況を乗り越えるパワーとなるのではないだろうか。
よく見れば、「第1回」と書かれていた全日本製造業コマ大戦。第2回の開催は、大いに期待できるだろう。(完)。
MONOist編集部では「中小企業からお届けする加工技術の基本シリーズ」の第2弾を準備中です。今回は湘南台から、量産部品設計の基礎解説をお届け。「おちむら金属」の「おち」の方、モールドテック 落合氏による連載になります。3月下旬公開予定ですのでお楽しみに。
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