「おちむら金属」はチタンと職人の技術力を惜しみなく使ってコマ開発。ほかにもマシニング加工だけ、放電加工だけで作ったコマなど登場。
2012年2月1〜3日、公益財団法人神奈川産業振興センターらが主催する工業技術見本市「テクニカルショウヨコハマ 2012」が開催された。同イベント内 心技隊(モノづくり系異業種集団)のブースで催された「全日本製造業コマ大戦」(コマ大戦:同年2月2日開催)や、そこに登場した個性的なチームやコマについて、その技術的な部分も含めたエピソードの数々を前回(第2回)、今回(3回)に分けて紹介していく(イベント概要については、第1回を参照)。
この大会、数は少ないが、コスチュームやパフォーマンスで“魅せる”チームもあった。その一人が、赤い作業着に身を包んだ「ケズルンジャー」なる人物。その正体とは?
切削・研削の味方 ケズルンジャー。その“仮の姿”は、新潟県からやってきた東港工機の加藤修氏だ。
コマの材質は快削真ちゅう C3604。「鋼に比べて比重が大きく、入手・加工しやすいことが決め手でした」と加藤氏。コマの試作は30個以上。その加工法は、切削の神髄を見せるべく、「旋盤を使わず、マシニング加工のみ」としたという。厳密に芯(しん)出しをするには不利な条件だが、あえてそれに挑んだとのことだ。
ひとまずコマの攻撃力を高めるには、できるだけ重い物がよい。加藤氏は、コマに穴(溝)を開け、そこへ鉛を流し込む案を考えたという。しかし、穴に対し均一に溶け込まなければコマの回転が安定しないという懸念から、却下。
「でもせっかくだから、その穴をデザインとして取り入れてみようかと、ボールエンドミルで掘ってみました。そうしたら、クルマのアルミホイールのようなデザインになって、金色でキラキラして、これは『カッコイイわ〜』と。『カタチは偶然の賜物(たまもの)』だと思いました」(加藤氏)。
コマ大戦に参加エントリーして以来、コマ製作は加藤氏1人で取り組んできたが、軸ぶれの問題が解消されず、大会2日前までは“1分も回らない”コマしか作れなかったという。困り果てていた同氏だったが、土壇場で強力な“助っ人”が現れた。
「大会前日、うちのベテランオペレーターが『芯をキッチリ出したやつ作ったから』と私にコマを6個(それぞれ微妙に形が異なる)持たせてくれたのです」。その道30年のテクニックが、加藤氏の“マシニング加工のみ”というこだわりをかなえてくれた。
「それまでずっと1人でやってきたので、そのコマを受け取ったときは、うれしかったですね。思いの詰まったコマですから、1試合ずつ勝ち上がるたびに、携帯から新潟の工場で作業をしていたオペレーターへ『すげー! 勝ったよー!』と逐一報告していました」(加藤氏)。
「南無八幡大菩薩(なむはちまんだいぼさつ)!」――対戦の前に、なぜか大声で祈祷(きとう)し出した人がいた。どうやら、闘魂注入の儀式らしい。
濃いパフォーマンスで対戦者を圧倒……、というか場内を笑いで沸かせた。しかし闘魂注入の甲斐(かい)はなく、勝利の神は下りてこなかった。とはいえ、『勝ち抜いて頂点を目指す』考えがそもそもなかったようだ。
「多くの皆さんが『よく回るコマ』を作ってくるだろうと予想していました。なので、『回らずに、戦って戦って、そして敗れる』コマも1つぐらいあった方が、見ている人たちも楽しめると思いました」と、群馬県からきたチーム義貞(よしさだ)のユニーク工業 専務取締役 羽廣保志氏。
重たいコマ故に、うまく回しても2分しか持たない。極めて短時間で決着を付けなければならないということだ。
同氏のコマは作業場の廃材を利用したもの。古くなったφ6mmのタングステン製のエンドミルをコマ切れにし、余っていたSKH材を旋盤加工で形を整えてレンコンのように穴を開けたベースにそれらを詰め、本体の重さを稼いだ。ベースの外形は正12角形にすることで、攻撃力をアップしたと言うことだ。その姿が銃のリボルバーに似ていることから、羽廣氏は「リボルバージャンキー 3号」と名付けたという。試作では、φ4mmのエンドミルの端切れ10本の正十角形のものも試作したが、本番で採用したものの方が格段に重量がアップしているということだ。
重たいコマを回すための取っ手は、通常のローレット加工ではなく、ターニングセンターを使って引っかいて溝を作った。羽廣氏いわく、「指の皮が向ける」ほどのグリップ力に。
コマの先端(下部)は、とがらせずに丸くすることで、縦横無尽に走り回らせるようにしたとのこと。
対戦時、実は、接触した相手のコマを絡ませようと、べたべたする「松脂」を塗っていたが、狙った効果は全く得られなかったとのことだ。なお、第1回 コマ大戦のレギュレーションでは、そのような作戦に規制はなかった。
「次回は、高精度でよく回るコマを倒せるコマを作りたいです。3回に1回は倒せればいいと思います」(羽廣氏)。
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