米トランスマジック社CEOのクレイグ・デニス氏が来日し、3次元データ変換・修正ツール新製品「TransMagic R9」について紹介した。CAEベンダーのヴァイナスが、同ツールの日本での総代理店となった。
CAEベンダーのヴァイナスは2012年1月12日、2012年1月4日付けで米TransMagic(トランスマジック:本社はコロラド州デンバー)と日本国内における総販売代理店契約を正式に締結したと発表した。米トランスマジックは、3次元CADデータ変換・修正ツール「TransMagic」の開発元。
ヴァイナスが販売するCFD(流体解析)ツールのユーザーは、STLデータを利用して解析をすることがよくあった。その際には、3次元データフォーマットの変換時に生じるエラーの修正に手間が掛かっていた。もともとCFDツールに付属していたツールなどもあったが、ヴァイナスがより使い勝手のよいデータ変換ツールをリサーチし、TransMagicがベストだと判断したということだ。
2012年1月中旬には、米トランスマジックのCTO クレイグ・デニス(Craig Dennis)氏が来日し、東京と名古屋で同社の新製品「TransMagic R9」に関するセミナーを開催。デニス氏は、米トランスマジックの創設者であり、「TransMagic」の開発にも携わった。
MONOist編集部はTransMagicについて、上記セミナー講演のために数日来日していたデニス氏に個別取材をする機会を得た。今回は同氏が自ら、TransMagic R9の機能について紹介してくれた。
「機能と精度だけではなく、使いやすさも追求して開発してきた」とデニス氏。
TransMagic R9は、直感的なGUIで、さまざまなCADやRP(Rapid Prototype)のフォーマットをほぼ自動で任意のフォーマットに修正・変換してくれるソフトウェアだ。異種フォーマットにしたことで起こる“化け”や欠落を自動検知し、自動修正する。
同ツールは、STEPやIGESなどの中間フォーマットを経由するのではなく、ネイティブなデータに直接アクセスして修正し、変換できる。3次元データに直接、設計情報(寸法、公差、材料、製造の情報など)を組み込むことも可能だ。
同ツールが対応している3次元データフォーマットは、、以下の通り(書き込めないフォーマットも一部ある)。
TransMagic R9は、上記データのエラー検知および修正、変換を完全自動で実行、もしくはユーザーの意思で修正を加える半自動で実行可能だ。
「TransMagic R9 Repair System」(自動修正ツール)の基本となる「Auto‐Repair Wizard」の操作で使うGUIは、信号のイメージが描かれた小窓1つ。この信号は、交通整理の信号と考え方は大体同じ。「赤」が警告(粗悪)、「黄色」が注意(問題あり)、「青」が安全(良好)という意味となる。「いわば、3次元データの健康診断」だとデニス氏は説明した。
おおよその手順は、以下の通り。
上記の修正処理では、「Lite Repair」と「Full Repair」のいずれかが機能する。これらの機能では、重複した頂点や0のエッジ、面積の定義が0の部分などを正常な幾何定義に修正するなどが可能だ。
Lite Repairは、黄信号が出たとき、いわゆる後工程の作業に響かない小さなエラーを自動修復する機能で、曲面間の連続性に関する小さなエラーの修正をする。また、以下のような機能を自動実行する。
Full Repairは、後工程に問題を及ぼすような、もう少し込み入ったエラー(赤信号)を修正するための機能。こちらはモデル上のすき間を検知して、連続曲面を生成し、ソリッドモデルも自動生成する。また以下のような機能を自動実行する。
上記の全自動修正機能で修正しきれないエラーは、「MagicSurface」を使い、一部手作業で修正をしていく(MagicSurfaceは、TransMagic R9の下位バージョンである「ELEMENT」には付属しない)。上記は、プログラムが自動でエラーを検知して面の修復までしたが、この機能では自動検知されたエラー個所について、ユーザーの意思でもって「面を張る」「分割する」「トリムする」といった修正ができる。マニュアルの修正といっても、エラー個所の自動検知、最適形状の自動検知でアシストする。例えば、以下の図のようにモデルの角に微小なRが掛かっており、途中でRの表面が欠落してしまっているような場合は最適な曲率で形状を補ってくれる。
上記のようなエラーデータ修復だけではなく、設計や解析に必要のない形状を取り除く作業もTransMagic R9のRepair Systemを使えば、3次元CADで修正をするよりもはるかに短時間で修正できるとデニス氏は説明した。ユーザーの例では、105Mバイトある複雑な形状をした3次元モデルの外側のサーフェスだけを残す修正をした場合、3次元CADでの修正では2日かかったところ、同製品の修正なら2時間で済んだとのこと。
RPや有限要素法解析などで利用するSTLのための機能も備える。「Median Edge Facetting」では、例えば3次元モデルのエッジに微小なすき間が空いた場合、ソリッドモデルの面修復作業をしなくてもダイレクトに適切なファセットデータ(線で構成する面データ:STLデータの構造)を自動生成可能だ。
「Adpative Facetting」は、有限要素法解析で利用するSTL用に、均等なメッシュを自動生成・修復する機能だ。
TransMagic R9では、64ビット処理に対応し、Gバイトを超える大規模データの一括変換も可能と言うことだ。
米トランスマジックの創業は2001年で、同社の3次元データ変換の技術は既に米国で10年以上の歴史がある。日々顧客から難題の解決を迫られ、それを解決するたびに機能が磨かれてきたとデニス氏は話した。また市場で大きなシェアを占めるCADベンダー各社とパートナー契約も結んでおり、CADデータの最新技術は常に取り入れつつ開発している。
TransMagic R9の日本語バージョンは、現在、米トランスマジックで開発中で、翻訳には日本語が話せる同社スタッフが携わっているという。代理店のヴァイナスは翻訳の精度面をサポートする。日本語版の正式リリース日は確定していないが、早めの対応を目指しているとのこと。
評価版(英語)については、記事末関連リンクのヴァイナスのサイトからダウンロード可能だ。
ライセンスは、ノードロックとネットワークがある。ノードロックの永久ライセンスは30万円(税別)から、ネットワークの永久ライセンスは60万円(税別)からとなっている(次年度以降に年間保守費用が発生する)。
TransMagic R9は、主に以下の3クラスの製品がある。
アドオンツールについては、以下の2つ。
デニス氏は、同社の顧客2社の事例を紹介した。両社は上位製品(EXPERT)のユーザーだ。
1社は、輸送機器メーカーの米ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)。ここのメインのCADは、ハイエンド3次元CADのCATIA V5。同社が取引をしているアメリカ海軍(US Navy)はミッドレンジ3次元CADのSolidWorksのユーザーだと言う。同社のLCS(軍艦)の開発現場で、TransMagicによる自動処理を活用したことで、データ変換の時間に換算して50パーセント削減、再作業の時間を90パーセント削減したとのこと。従来は、STEPに変換してデータ交換をしてきたが、データ欠陥が目立ち、変換や修正に手間が掛かっていたと言う。
もう1社は、自動車部品(空調系部品)サプライヤーの米スターク・マニュファクチャリング(Stark Manufacturing)。同社のメインの3次元CADはSolidWorks。さまざまな自動車メーカーとデータ交換をするが、使われているCADはさまざまである。取引のある企業の使うCADを全て導入しようとすれば、ライセンス費用だけではなく、保守や教育のコストまで掛かってしまう。そこで、TransMagicを導入することでソフトウェアのコストを抑えた。またデータ変換・修正にまつわる作業時間は、1週間のうち12時間削減したとのこと。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.