デンソーでは、設計者FMEAの品質向上とデザインレビュープロセスの効率化を目指した活動を進めている。本稿ではその概要を紹介する。
構造計画研究所が2011年10月12〜14日に開催したイベント「KKE Vision 2011」では、各業界の専門家による多数の講演が行われた。本稿では、中でもデンソーにおけるFMEA改善の取り組みに注目して紹介する。
2009年度 日本科学技術連盟 品質革新賞を受賞したデンソー 本田陽広氏が所属するデンソー 機能品技術2部では、油圧系VVTやATコントロールバルブ関連製品を扱っている。これらはエレキ・メカ・ソフトの全ての領域に関わる。
FMEAとFTAを一度に実施できる「FMEA辞書」「キーワード集」「FMEA作成シート」などの道具を自ら作成した。
不具合を未然に防ぐには最上流の工程でどれだけ懸念点を見つけ出し、対処できているかが重要だが、設計者自身が個々で作成するFMEAシートでは、気付かない問題が多数ある。同様にデザインレビューの場でも、参加者が“思い付き”のように指摘を行うことが多いため、ヌケやモレを起こしやすい。
「FMEAはどこの企業でも実施していると思うが、どうしてもヌケが出てしまう。ヌケが出ないようにするには工夫が必要だ」
「技術情報は蓄積されはするものの、それを活用できていない」
本田氏は、多くの企業で過去の品質問題が蓄積されているにもかかわらず、有効に活用できていないことを指摘する。
「“過去トラ”データ*は各社持っているが、それをどれだけ設計時に活用できているか。ほとんどの設計者が情報を活用できていないのではないか」
本田氏は蓄積された過去の品質問題を正しく参照できれば、次回以降の設計業務に反映できる、との発想から過去トラブル情報をデータベース化したとしても、参照するスキル、経験がなければ、有効な情報を発見できない点が課題だと指摘する。
「不具合の多くは再発。いかに事前に気付くことができるかが品質向上のカギとなる」
若く、経験の浅い設計者が問題に気付かない場合でも、それが製品品質を左右しないようにするために行われるのがデザインレビューだ。しかし、企業やチームによってはデザインレビューのプロセスそのものが本質的に誤っている場合が少なくない。
「一般にFMEA活動として実施しているものの中には、例えばチェックシートがなかったり、部品の分解を行わない場合もある。これでは品質に関する問題を網羅的に検討することは難しい」
本田氏は設計者FMEAとFTAを、設計者のスキルレベルによらず均質にし、デザインレビュープロセスをより有効なものにするための仕組みを、独自の方法で編み出した。「FMEA辞書」および「キーワード集」「マクロFMEA作成シート」だ。
*過去の品質トラブル事例などのデータベース。
「例えば、実際の例ではないが」と前置きをしたうえで品質問題が懸念されるケースを紹介した。
ある部品のネジ締め部分で、絶縁材の厚さを変更した場合に発生し得る問題とは何だろうか。銅メッキのワッシャでネジ締めを行ったケースで、水分の付着が想定される場合、絶縁材の厚さ次第では、ネジ締めによる応力と水分の付着に起因するイオンマイグレーションが発生し、金属の結晶(ウィスカ)ができることが懸念される。ウィスカによりショートを起こす可能性があり、品質上極めて重大な問題となり得る可能性がある。
ベテランの設計者であればすぐに設計上の『心配点』(=イオンマイグレーション現象による将来的なショート発生の可能性)に気付くが、若く経験の浅い技術者では気付かない可能性がある。経験と気付きがそのまま品質に結び付くといえる。
過去の設計との差異に注目したFMEAを作成したとしても、作成者自身に絶縁材の厚さそのものが重大な変更点であるという認識がなければ、設計者FMEAのシートには反映されず、限られた時間の中で実施するデザインレビューで見逃されてしまう可能性がある。
例示されたウィスカが発生するケースでは、一定期間使用した後に発生する問題なだけに、まさに「いかに事前に気付くことができるかが品質向上のカギとなる」問題といえる。
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