車載用SoCの拡大を目指すルネサス、目標達成を阻む課題解決に全力(1/2 ページ)

» 2011年11月09日 00時00分 公開
[朴尚洙,Automotive Electronics]

 カーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)をはじめとする車載情報機器向けSoC(System on Chip)で圧倒的なトップシェアを誇るルネサス エレクトロニクス。2010年度の組み込み型カーナビ向けSoCのシェアは、国内で97%、海外で57%となっている。同社は2013年度に、97%の国内シェアを維持しながら、海外シェアを65%まで伸ばすという目標を掲げている。また、組み込み型カーナビ市場が、2010年の約1000万台から2015年までに年平均で10%以上伸びると予測されている。


「R-Car」の開発を早期に完了

 しかし、ルネサスが車載情報機器向けSoC事業を拡大するためには、解決しなければならない課題がいくつか存在している。これらの課題に対する同社の取り組みについて、製品開発、製造、マーケティングなどの観点で見てみよう。

図1 ルネサスの車載情報機器向けSoCの製品展開 図1 ルネサスの車載情報機器向けSoCの製品展開 合併前の2社とルネサスエレクトロニクスの車載情報機器向けSoCについて、製品投入時期と処理性能を示している。「EC-4255」、「EC-4260」、「EC-4350」が、NECエレクトロニクスの「EMMACar」の製品である。「SH-Navi3」、「SH-NaviJ3」、「SH-NaviE1」はルネサステクノロジの「SH-Navi」に属している。

 まず、製品開発では、新ブランドとして立ち上げた「R-Car」の第1世代製品の全ラインアップを2011年10月までに発表し終えたことが成果として挙げられるだろう(図1)。R-Carは、アプリケーション処理用にARMのプロセッサコア「Cortex-A9」を、リアルタイム処理用にルネサスの独自コア「SH-4A」を用いる、非対称構成のマルチコアプロセッサをプラットフォームとする製品である。

 かつて、合併前の2社は、NECエレクトロニクスが「EMMA Car」、ルネサス テクノロジが「SH-Navi」というブランド名で車載情報機器向けSoCを展開していた。2007年10月にNECエレクトロニクスが市場参入(当時のブランド名は「NaviEngine」)を表明してから、2009年4月に合併方針が発表される1年半の間、両社は激しく競合していた間柄である。その両社が、2010年4月の合併から1年半、合併方針の発表から数えても2年半という短期間でR-Carの立ち上げを実現できたことはまずまずの成果と言ってよいだろう。

 R-Carの開発を早期に完了できた技術基盤は2つある。1つは、NECエレクトロニクスのEMMA Carが、ARMのプロセッサコアをベースに製品を開発していたことだ。第1弾製品の「EC4270」はARM11を4個搭載するマルチコアプロセッサだったし、R-Carのアプリケーション処理用プロセッサコアとして搭載されている「Cortex-A9」を用いた製品の開発でも先行していた。もう1つは、ルネサス テクノロジの携帯電話機向けSoC「SH-Mobile G」で採用していた、ARMのプロセッサコアとSH-4Aを用いた非対称構成マルチコアプロセッサのプラットフォームの存在である。2006年5月から量産を開始したSH-Mobile Gは、NTTドコモ向けの携帯電話機に採用されるなど、そのプラットフォーム技術は既に確立されていた。

 これら2つの技術基盤に加えて、合併とほぼ同時期にプラットフォームの変更を決断できたこともR-Carを短期間で開発できた要因の1つとなっている。現時点におけるルネサスの車載情報機器向けSoC事業の売上げは、プロセッサコアとしてSH-4Aのみを搭載するSH-Naviがほとんどを占めている。また、SH-Naviを開発していたルネサス テクノロジは、SH-4Aのコア数を増やすことでSH-Naviの性能向上を図る方針だった。2009年1月には、SH-4Aを2個搭載する「SH-Navi3」を発表しており、その次世代品である「SH-Navi4」ではコア数を4〜8個に増やすことも検討していたのである。これらの事情を考慮すると、R-Carにおけるプラットフォーム変更は思い切った事業判断と言えるだろう。

図2 「R-Car」を用いたアプリケーション開発の事例 図2 「R-Car」を用いたアプリケーション開発の事例 2011年10月に開かれた「R-Car」の開発者向けイベント「R-Car Consortium Forum 2011」で展示された。中位品の「R-CarM1A」上で、「FlashLite」ベースのGUI(Graphical User Interface)を動作させている。OSはLinuxを用いており、2DグラフィックスAPI(Application Program Interface)であるOpen VGのライブラリはルネサスが提供し、Flash Liteのポーティングはイーソルが、GUIの開発はエイチアイが担当した。「Cortex-A9」を搭載するR-Carでは、この事例のように、民生用機器の開発リソースを活用した短期間でのアプリケーション開発が可能である。

 これらの取り組みによって、Cortex-A9を搭載する競合他社の車載情報機器向けSoCに遅れることなくR-Carを市場投入することができた(関連記事)。さらに、Cortex-A9を4個搭載する車載情報機器向けSoCについては、競合他社に先がけて2011年11月からサンプル出荷を開始している。(関連ニュース)。Cortex-A9は、スマートフォンやタブレット端末の急激な市場拡大によって、PCとサーバ以外の機器向けのアプリケーション処理用プロセッサコアとして採用が広がっている。車載情報機器とスマートフォンやデジタル家電などの民生用機器の技術融合が進む中で、民生用機器向けのリソースを車載情報機器の開発で有効活用するには、Cortex-A9の搭載はもはや必須事項だ。Cortex-A9を採用するR-Carの製品開発を早期に終えられたことは、車載情報機器を取り巻く急激な市場環境の変化への対応という点で重要な意味を持っている(図2)。

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