軽い車は遠くまで走る、ではEVをどこまで軽くできるのか電気自動車(1/3 ページ)

EVの走行距離を伸ばすためには、二次電池の性能改善が欠かせない。しかし、電池に手を付けなくても燃費(電費)改善の方策はある。車体の軽量化だ。東レが開発した炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用することで、日産自動車の「リーフ」派生車種を600kg近く軽量化できた。

» 2011年09月16日 12時30分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]

 電気自動車(EV)の弱点の1つは、ガソリン車に比べて走行距離が短いことだ。「街乗り」には十分だが、遠出には不安が残る。EVの用途が狭くなってしまう。

 走行距離が短くなる理由は、EVに搭載するリチウムイオン二次電池が高価な上に重く*1)、大量に搭載できないからだ。電池の改善も必要だが、それ以外に走行距離を伸ばす方法はあるのだろうか。

*1)野村総合研究所の分析によれば、2010年時点のEV(日産自動車のリーフを想定)のコスト構成に占める電池の割合は6割を超える。リーフの電池重量は294kgであり、これは車両重量の約2割に相当する。なおリーフの走行距離は200km(JC08モード)である。

 ある。効率の良いモーターや空力の改善、ブレーキ回生の改良、充電インフラの拡充などさまざまな取り組みが有効だ。中でも最も基本的な取り組みは車体重量の削減だろう。ガソリン車であれば、車体重量を10%減らすと、6%燃費が向上する*2)。EVでも同様の効果が期待できる。

*2)または、車体重量を100kg削減すると、100km当たりの燃費が0.7l 改善される。World Steel Association(世界鉄鋼協会)の自動車分科会であるWorldAutoSteelが公開しているリポート "Determination of Weight Elasticity of Fuel Economy for Conventional ICE Vehicles, Hybrid Vehicles and Fuel Cell Vehicles" による数値。

 EVの重量を大幅に軽減するにはボディに鋼板(比重7.9)ではなく、アルミニウム(同2.7)や樹脂(同0.9〜1.4)などを多用すればよい。比重から考えると樹脂を採用した場合の効果が大きい。ただし、樹脂単体では構造材に使うための引っ張り強度が不足する。他の材料との組み合わせが必要だ。

日産リーフに炭素繊維樹脂を適用

 東レは、東京で開催した「東レ先端材料展2011」(2011年9月14〜15日)において、炭素繊維強化樹脂(CFRP)をボディなどに適用したEVを2種類展示した。CFRPは、樹脂母材(マトリックス)に炭素繊維を挟み込んだ複合材料である。

 1つは、2人乗りオープンカー仕様の「TEEWAVE AR1」(図1)、もう1つは日産自動車とニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(NISMO)のレイーシングカー仕様のコンセプトカー「リーフNISMO RC」(図2)である。いずれも鋼板をCFRPと置き換えることで車体重量を500kg以上軽量化できた。

ALT 図1 東レのEV「TEEWAVE AR1」 2種類の炭素繊維強化樹脂(CFRP)を約160kg使い、鋼板使用時と比べて重量を550kg減らすことができた。36%の重量削減に相当する。車両重量は846kg(うち電池重量は220kg)。寸法は3975mm×1766mm×1154mm。英Gordon Murray Designが車体を設計し、約1年で完成した。今後、国内の公道で走行できるよう登録する予定だ。

ALT 図2 日産自動車とNISMOのEV「リーフNISMO RC」 ボディにCFRPを使うことで、リーフと比較して重量を595kg削減できた。出力当たりの重量は、リーフの20.0kg/kWに対して、11.56kg/kWに向上しており、加速性能も高くなる。リーフと同じ電装系やモーター、二次電池を使った。リーフと比較して全長は20mm長く、全幅は172mm広く、全高は333mm低い。モータースポーツ普及を狙い、NISMOが8台製造する。写真は塗装前の状態で黒色のCFRP(熱硬化CFRPのみを使用)が露出している。
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