と、ここまでは、良いことずくめのタイ製造業ですが、近年問題として顕在化していることに「ストライキ」と「労働力不足」があります。リーマンショック後のアメリカ系自動車製造会社で始まった労働争議(ストライキ)は、リーマンショックが既に過去のものとなりつつあった2010年後半から増加傾向にあります。
2011年になっても、欧米系の会社が多い工業団地で飛び火したようにストライキが散発し、同様に、少なくない数の日系企業でもストライキが発生しています。
本来であれば、タイでストライキを起こす場合、法律上、事前に会社側へ要望事項を伝えなければなりません。もし書面による要望が認められない場合、ストライキに突入するという手順なのですが、この1年間に発生したストライキの特徴として、こうした手順を踏まずに発生しているケースが多いことが挙げられます。こうした場合、労働者側の代表者が誰なのか、要望事項は何なのか明確でないため、解決にかなりの時間がかかり、企業としての生産活動に大きな影響が出ています。
また、2011年になって、ナワナコーン、アユタヤ、アマタナコーンなどのバンコク近郊の工業団地では、労働力不足が深刻な問題になっています。従業員を引きとめるため、給与体系の見直し、福利厚生施設の充実を図っている企業が多くあります。
前述のプアタイ党では、最低賃金の引き上げを公約にしています。タイ経済界を中心に多くの反対意見が出ていますが、今後もタイ経済が成長して行く上で、労働賃金の上昇は不可避ではないでしょうか。
余談になりますが、リーマンショック後の生産減少期に、数カ月の賞与を支給した某自動車会社がありました。この特別ボーナス支給の動機は、その後の急速な景気回復を見込んだ労働力確保が目的であったいわれています。一方、同じ工業団地で操業しているTier1、Tier2の企業からは「市場価格」を崩す行為であると、当時はかなり批判の声が出ていたことがありました。
現在、タイでは職種によっては多くの外国人労働者が従事しています。土木・建築現場では多くのミャンマー人、ラオス人が働いています。今後は、製造業でも陸続きである近隣諸国から労働力の供給を受けることになるかもしれません。こうなると、言葉や習慣の異なる外国人労働者の「労務管理」、スキルのバラつきを管理するための「品質管理」が重要課題になってくることが容易に想像できます。
日系企業にとっては、進出先のタイで、タイ人ではない外国人労働者を雇用するというちょっとおかしな構図になってきます。
こうした変化は、筆者のビジネス*にとっても、大きなインパクトがあるかもしれません。いままで以上に、タイの事業環境に合致し、ローカルユーザーが使いこなせるシステムの構築が重要なポイントになるはずです。
*筆者はASEAN地域を中心に日系/現地製造業向けに3階層の製造業向けソリューション(計画系、実行系、現場支援系)提供を行っています。
これは全くの私見ですが、東南アジアの中で日本からの直接投資がタイ1カ国に集中している状況には、ちょっと違和感を覚えています。タイにはさまざまな制約が存在しています。外国資本率の上限、BOI取得&保持、Sales/Purchase VAT(Value-added Tax:付加価値税)*対応、外国送金規制、その他です。
*付加価値税(VAT)の制度は1992年に導入。VATは、日本の消費税に相当し、タイ国内における物品の販売やサービスの提供および輸入に対して課税される。VATの負担者は最終消費者であるが、企業に納税義務があるため、あらかじめ税務署で納税者登録を行う必要がある。物品やサービスの提供を継続的に行う事業者で、年間180万バーツの収入がある者はVATの納税義務がある(ジェトロの公開する地域情報>タイ>税制から抜粋)。
タイが投資環境として優れていることは紛れもない事実ですが、東南アジアには、タイと同等の投資環境を有する国が少なくありません。一極集中するのではなく、事業適正に応じた投資先を選定していくことが、地域経済への発展に寄与し、最終的には進出企業のROIにつながるのではないでしょうか。
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次回は「東南アジアの中流階級国家」と題して、マレーシアを取り上げます。お楽しみに。
(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)
1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立
2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立
2006年 Data Collection Systems (China)設立
2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社
1992年より2008年までの16年間マレーシア在住
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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