MONOistの「甚さん」シリーズでおなじみの技術士 國井良昌氏による講演では、記事や著書にも出てきた「設計サバイバル術」の数々について披露した。
「衣服も何も身に付けず、無人島についたら、まず何をするか?」――國井氏は会場に問う。その場合、最初に水や食料を探すという答えは、誤りである。「まずは靴を探すべき」と國井氏は述べた。人間は、長い距離、はだしで地面を歩くことができないからだという。設計も、似たような目利きが必要だという。その目利き術が「設計サバイバル術」である。言うまでもなく、CAEの活用の点でも重要である。
今回のサバイバル術は、樹脂部品設計にクローズアップしている。講演序盤では、家電と電気自動車で、構成部品の材質分布が非常に似ていることを紹介。電化製品の構成部品で一番点数が多いのは板金であるが(新人が押さえるのはまずここだとも説明)、樹脂部品はコストの約半分を占め、EV車のように製品が電気制御化すると樹脂部品の比率が増えるとグラフとともに解説し、樹脂部品設計の重要性を説いた。
設計サバイバル術は、例えば以下である。
上記は國井氏がMONOistで執筆する「甚さん」シリーズ、著書などで詳しく説明しているので、併せてご覧いただきたい。
また、「日本人の設計者はコスト計算ができない」との苦言も。コスト計算のできる設計者が増えて欲しいと述べた。
人材採用についてユニークな事例も紹介した。國井氏によれば、例えばもともと工学系の専攻や職種ではなかった女性人材をメカ設計者に教育してしまう例が実際に幾つかあるという。“女性”というのは1つのポイントで、國井氏によれば「女性は競争心と向上心が高い。それに、例えば解析部門と設計部門の間に入り、技術コンサルティング的な動きをするときには、男性が間に入るより女性の方が抵抗感は少ないし、物腰の柔らかい説明が比較的得意など、利点が多い」とのことだ。そんな女性たちを育てるためにも、國井氏の「設計サバイバル術」は有効だという。
学校、企業、コンサルティング、とそれぞれ立場が異なる3人によるパネルディスカッション。ここでは、企業内における技術者教育や、中小企業のCAE普及について語られた。ここではその一部を紹介しよう。
――中小企業にCAEを広めていく上でのポイントは?
石川氏:大手企業については、CAEの導入はかなり進んできていて、さまざまな事象の問題解決についてCAEが必要だという状況ができている。それなりの数の人員がいて、解析専任も確保できる。一方、中小企業は、人が少ない。その点をどう解決するかは、難しい問題。経営者が決断し、ソフトウェアに投資し、かつ担当も充てがう体制に整えることができれば。
――中菱エンジニアリングにおける教育体制は?
鈴木氏:新入社員はまず手描きの製図から研修が始まる。その後に3次元CADの操作教育。その後は現場に配属され、OJTで設計を習得していく。現場実習も行い、自分たちが設計した現物を“実感する”機会を持たせている。自分の設計した物が実物になるのは、一番の喜びであると思う。
――企業や学校で技術教育をする側からの意見は?
國井氏:単に教育だけしても、やがて全てがクリアされてしまう。そこで、コンサルテーションが重要になる。品質工学、FMEA、解析シミュレーションなど、いずれのテーマにしても、かならず設計審査に結びつけるよう指導する。「設計審査に合格する」ために、CAEを使う(やらざるを得ない)というモチベーションが持てるようにする。設計審査の際、「どうしてそういう設計をしたのか」理由を求められると、KKD(経験・勘・度胸)の説明をしてしまうこともある。そういったときに、具体的に理由が示せるCAEの解析結果が効果的だ。設計審査と結び付ければ、ほっといてもCAEを使ってくれる。
――学生に解析の教育をする際の留意点は?
石川氏:学生は、CAEをするにしても環境が整っている中で始める。課題を与えれば、ほっといてもどんどんCAEを使う。中小企業の人たちとは事情が少し異なる。もしかして塑性加工の解析だけかもしれないが、一昔前は実現象と解析結果があまり合わず、なかなか使ってもらえなかった。それがいまでは、3次元モデルが利用できることで、ある程度の知識は必要なものの、だいぶ使ってもらえるようになってきた。また、過去は実際に金型を作り、実現象を見て塑性加工技術のノウハウを習得した。それがいまでは、コンピュータの中で体験が可能になり、いろいろと実験がしやすくなった。もちろん、実現象の体験はいまでも必要だが、先輩のノウハウをコンピュータの中で実践し、試行錯誤できるようになった。若い学生たちには、とにかくCAEに触れてもらう。そこから始めて、理想状態に近づくためにはどうしたらいいか、自分で勉強してほしい。講演の最後で「まずは使ってみてほしい」と述べたのには、そういった気持ちがあった。
3人の講演者の考えで共通していたことは、「CAEは今後、間違いなく必要なものであること」とともに「CAEは、あくまで道具である(使うのは、人である)」ということだ。MONOistの記事や講演でも幾度となく語られてきたことでもある。
大手企業では、そういった考えの下、設計開発の中にしっかりと根付いてきている。CAEを導入していない企業も、その必要性もよく理解できるし、高度な解析技術に興味はあるものだ。面倒な作業の一部がITで自動化されてくれるのはありがたい。しかし資金や人員に限界があり、その上、この不景気だ。新しい仕組みを導入しようにも、長年積み上げてきた旧インフラによる設計開発のデータはどう扱えばいいのか。いろいろと非常に、悩ましい。
悩ましい問題を「えいや!」と乗り越えるには、やはり、石川氏が述べたように、経営者が、1つの目的の下で決断することが鍵になってくるのだと思う。幸い、CADやCAEなどのソフトウェア、PCなどのハードウェアが、どんどん値を落としてきているし(いまは高く感じても、数年後には手が届くかもしれない)、少なくとも10年前よりは決断は下しやすくなっているのではないだろうか。
後に開催されるTech Biz EXPOや、MONOistの記事では、そういった動きを後押ししていく。
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