――設計者のCAE教育を担当しているporcaro氏。この方、南山氏が「んなもん、いらないゼ☆」と言う、社内マニュアル(ガイドライン)を地道に作り続けている。
ここ1年ぐらい僕、ずーっとマニュアル作ってたんですよ。「この計算をやるときは、こういうことを考えて、このボタン押してね」とか。それで、設計者にセミナー形式で教えるんですけど。その後、なんも結果が出てこなかったりする……。で、忘れた頃に「お前、そんなこと聞くのかよ」っていう質問がくる。なので、今度は考えさせるために、マニュアルにバグ(誤り)を仕込んでみました。
(一同、笑い)
強制的に考えさせるために、そうやってトラップを仕込んだ。でも、それさえ気が付かない人たちがいるんです。
紙って怖いっ! 紙ってね、作った時点で陳腐化が始まって、現状がついていかないんだよ。「書いてあるからネー」で終わっちゃうでしょ。紙はアップデートが効かないし、考えることを一切しなくなる。そこが、僕が社内でルールやマニュアルを作らなかった一番の理由。
僕も、そのマニュアル(紙)を作ろうとしているのですが。
作ってるのはいいと思う。
ですけど、いまの話聞くと、どうだろうか……。
ルーチン作業で、同じ境界条件が毎回くるようなものはマニュアルを作ればいい。うちも実は、マニュアルが部分的にある。例えば、「非線形の“とある部品”を解析するときの専用マニュアル」っていうのが。だけど、一般的なモノにはない。
でも、マニュアルがなかった場合、設計者は考えるかというと、考えないことが多いと思うんです。
それはもう、ケツをたたかないと。
ツールのハードルを下げたいんですよね? マニュアル作ったりして。「取りあえず、触ってみて」という気持ちがある。
うちも、紙のマニュアルは、一応ある。CAEのはそんなにないんだけど、それは、うちら自身がやっているから、あまりないわけよ。でもね、いったんドキュメント系を作っちゃうと、これ以上でもこれ以下でもなくなる。次のことをやろうとするとき、「マニュアルがないから、できません」って。
そうそう。ブレイクスルーはできなくなる。
次から次へと、マニュアルを求められちゃう。「これやりたいんだけど、このマニュアル作って」って。
そうすると、どんどんやって、本末転倒になってくるのね。
マニュアル作ることが目的になっちゃう。
だから、やらない。ただ、それも難しいんですよ……。
――マニュアルを作り続けるべきか、きっぱりやめるべきか。ここで答えは出なかった。南山氏にはいらないかもしれないけれど、ひょっとして、porcaro氏にはいるのかもしれないし。いずれにしても、ポイントは「いかに、考えさせるか」。
――土橋氏は、いまは推進者の立場だが、以前はメカ設計者を長年やってきた。彼が新人だったころは、まだCADはなく、ドラフターで製図していた。そんな土橋氏は、「人がマニュアル」かもしれない、と言う。
僕の前任職は、メカ設計グループの課長。要は、設計部隊を取りまとめていたんです。そういう中で働いていて思ったのは、「設計者が自分でやろうとする」のか、「人に頼ろうとするのか」。「人=マニュアル」かもしれない。多分、僕と同世代か、もうちょい上ぐらいのところが、最後の「教え込まれた世代」かな。失敗しながら……。
――設計ミス、仕様を満足できない。でも装置は納入期限、お客さまに修正案を出して実行するものの、まだ満足できない。修正・改善の繰り返しによって仕様を満足できた――そんなことが、あったんですよ。
これ学校のせいもあるかもしれないけど……、若い世代が、「オペレーションはできるようになりました、でも実体験がありません」。「自分で装置を組み立てたことはないし。手を汚してなんかしたこともありません」と。
「先輩が設計した装置、完成した装置を受け継いだから、問題も起こることもなく」となってきている中、そんなことが起こったんじゃないかな。
「ツールは便利になりました」。「取りあえず、学校でオペレーション勉強してきたよ」と。それに、3次元CADも使えるし。教えてくれる人もいる。……まあ、深いところは教えてもらえないんだけど。
でも、「一通りのオペレーションができる」ことが、「俺は設計できるんだ」「俺は解析ができるんだ」という感覚になる。「真の設計」「真の解析」とは何か。それをする上では、その実体が分からなかったらできない。判断しようがないじゃないですか。うちの設計部隊は、いまは20人くらい。じゃあ、設計者が解析をやってるかっていうと、別にやらしてないです。設計者、やるべき業務がたくさんあって、解析をする時間はないですね。
うちはするよー。
うちは、いろいろ事情があるんだけど……、まったくできない。やりたいという人には、ちょこっと教えたりするんだけど、実際は無理かな、というより、もっとクリエイティブな仕事をさせてあげたい、と思ってる。
うちは、設計者に静解析しかやらせない。それ以上教えてない。「何を与えるか」っていうと、操作方法よりも、モチベーションを与えることを僕は最大のポイントにしているんです。僕が教えるのは、「こういうふうにシミュレーション使うと、上司は必ずオッケー出すよね」ってこと。
(設計者に)いま実際に困っている問題を持ってこさせる。僕がその場で解いて、それを見てもらう。で、その操作を教えるでしょ。「これで、明日からいままで散々いわれた上司をやっつけられるじゃん!」って。僕が解くのを見ていると、「あ、これくらいだったら俺でもできるよ」って思う。本当は、すぐにできないけど、僕のサポートがないと。でも、「できるよね」って思わせる。……で、そういう人を何人か作ってく。
そうすると、「やってみるか!」って人が出てくる、ぼこぼこぼこっと。あとはもう、既にある程度のレベルの人が、勝手にそのサポートをやってくれるようになる。マニュアルなくても。
DRとかでもめて、「こんなの、最初にシミュレーションやっとけよ」って(上長に)言われる。(それを言われた設計者から)「それ、シミュレーションできるの?」って聞かれれば、「できるよ」って答える。「ちょっとやってみて」って言われて、ちょっとやってあげる。そうしたら……、「はい、お願いね」って。
(一同、笑い)
俺は蹴っちゃうよー。「できるだろお前っ」て。「俺が見てやるからやれよ」って。
だけど、さっきの土橋さんの話じゃないけど、設計者は忙しくて、解析でゴタゴタするなんて、時間がもったいないよ。
(一同、笑い)
「これとこれはこういう境界条件で、こうやるんだよ」「こういうふうに考えるんだよ」って、考え方まで教えちゃう。まさにOJT。人間ってそうなんだけどさ……、子どももそうだけど、その人に1度自信が付くと、「もっとやろう、もっとやろう」になる。それを起爆剤にしてあげると、大分変わってくるような。
うちも非線形のモジュールとか持っているけど、それがあることすら、設計者にはまず、いわない。最初に高度で素晴らしい段階を見せちゃうと、「アレもコレもできるんだ!」と勘違いしちゃうから。
(一同、笑い)
――ここで、つのだこ(tsunodako)氏の元職場の、ちょっとすごい人に関するエピソードが。
私は以前の会社でCAEの専任部署にいたんですけど、一緒に仕事をしていた設計者の人に設計を教わっていたんです。私はその人から設計を学び、彼は私からCAEを学ぶ。設計者の人は、最初は物性値の数字をいじるだけ。私が、モデルから何から全部準備して、2次元解析で、一部の入力値だけ変えれば、異なる材料の比較はできるようにしておく。そういったところから始まって、そのうち設計者の立場でありながらも本格的にやり始めて……。私がその会社を辞めて、5、6年した後に特許検索したら、シミュレーションの方法で特許取ってるんですよ、その人が。設計者のままで。
一同:ほー。
逆に言うと、「解析部門は何やってんだッ」て感じですけど(笑)。いかに(CAEが)魅力的か。解析専任者や推進者が、設計者にどう見せてるかって、本当に重要!
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