2011年6月22〜24日に開催される「第22回 設計・製造ソリューション展」。出展社の1つ、SAPジャパンのブースは、基幹システムのWeb・モバイルアプリケーション連携の可能性を示すデモや、環境負荷低減ソリューションなど、興味深い内容となるようだ。
本稿では2011年5月に開催されたSAPPHIRE NOWでの発表内容などを含め、SAPジャパンの直近のトピックおよびブース出展内容を紹介する。
SAPジャパンブースでは、まずモバイルソリューション体験コーナーに注目したい。
SAPでは“世界のSAPユーザーを2015年までに10億人に増やす”という大きな目標を掲げている。同社製品は、通信インフラや金融システムなどでも採用されていることから、間接的な利用者を含めると現段階でも利用者は相当数に上るとみられるが「世界の約10人に1人が利用する状況を作るには新しい戦略が必要」(SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部長 馬場渉氏)だとしている。
そこで、同社の今後の動きを占う2製品が2011年6月1日に登場した。「Sybase Unwired Platform 2.0」やSybase買収をきっかけとした「Netweaver Gateway」のリリースだ。これと、現在同社が開発しているインメモリデータベース「SAP HANA」の高速レスポンスを組み合わせることで、従来とは異なる利用者、利用シーンを想定できるようになる見通しだ。
Sybase Unwired Platform 2.0はモバイル・Webアプリケーション開発向けの支援ツールだ。HTML5やJavaScript、CSSなどの次世代Webアプリケーション標準の環境をサポートしている。また、今後、あらゆるシステムがモバイルアプリケーション対応になっていくことを想定し、あまたある企業システムを低コストでモバイルアプリケーション開発者が開発できる環境(SDK)も提供する予定だ。また、HTML5の言語仕様に含まれているWebストレージでは暗号化によるセキュリティ対応も盛り込んでいる。
Netweaver GatewayはSAPシステムと各種アプリケーションを接続するインタフェースを提供する。RESTアーキテクチャやAtomプロトコルにも対応するため、アプリケーション間の情報連携やRIAアプリケーションからのアクセスも可能だ。
SAPシステムは独自のクエリ言語「ABAP」で動作するが、既存のWeb・モバイルアプリケーション開発者でABAPスキルを持つ人材は少なく、今後増加すると見込まれるWeb・モバイル対応ニーズに応えるのが難しい。そこで、同社がアプリケーション開発環境とSAPシステムをブリッジする部分を安全に提供するということだ。
両者を併用すれば、1つのアプリケーション作成工数で、複数のモバイルプラットフォーム向けのソースコード生成を行えるため、短期間で多様なアプリケーション開発が可能になるという。
リアルタイムでの業務分析やカスタマサポート端末での活用といった既存業務のモバイル対応のほか、アプリケーションを経由した直接的なVoC獲得にも利用できる。
業務向けの閉じたアプリケーションでなく、さまざまな環境から基幹システムにアクセスできるようになることを想定すると、システムのパフォーマンスが課題となってくる。全国の顧客営業担当が一斉に基幹システムにアクセスしたとしても、即応性を保障するバックエンドシステムが用意できるかがキーになる。同社がインメモリデータベースSAP HANAを開発する理由がここにあるといえよう。
これらソリューションについてもDMS展ブース内でデモンストレーションが行われる予定だ。
同発表の詳細については「SAPジャパン、SAP ERPやCRMをモバイルからも活用可能に」(@IT News)も参照してほしい。
2011年5月に開催された定例プレスミーティングでは、「SAP MII(SAP Manufacturing Integration and Intelligence)」の可能性も示されている。
SAP MIIはFA機器や生産計画システムなどと接続し、おのおのの状況を複合的に可視化し、意思決定を支援する製品。エネルギー消費量監視や生産計画策定、保全計画策定などさまざまな用途に活用できる。例えば、2010年6月のニュースなどでも紹介しているように、主要なPLCなどと連携して稼働実績を収集・分析することも可能だ。
SAPジャパン バイスプレジデント インダストリー戦略本部兼バリューエンジニアリング本部長の脇阪順雄氏は、生産現場の消費電力をライン改善の1つとして実施することで一層のコスト改善に結び付くと語る。
「コスト削減でよく使われる比喩に“乾いたぞうきんを絞る”という言葉があるが、生産ラインは極限まで効率化が進んでいる状況。どこに“水分”があるかというと、一般に生産管理部門とは別に保全部門が管理することが多い電力消費量の部分」(脇阪氏)
生産管理部門ではコスト低減を目的に生産工程の改善などを日々行っているが、保全部門ではこうした意識はさほど強くなく、安定した稼働を実現することに注力した活動が行われていることが多い。発生する費用は「必要経費」として配賦される。この領域に安定稼働に加えてコスト意識を持たせれば、さらなるコスト低減が見込めるという。
試験的に導入したある日本企業のエピソードも披露されたが、上記の通りのコスト低減と効率化に効果があったようだ。
企業名は明かされなかったが、その企業では生産設備の電力消費に関する情報は、保全部門が見ることになっており、予算上は“必要経費”として計上されていたという。それを、省エネルギー化すべく保全部門だけの情報として閉じるのではなく、工程管理などを行う部門や、より上位の本社管理部門も把握することで、効率のよい生産活動が行えるようにした。
「この企業では、工程改善と同様のプロセスで消費電力量の改善に取り組んでおり、担当者からは設備の電力を考慮するだけでこれほどコスト削減ができるとは思いも寄らなかったとの反応を得ている」(脇阪氏)
最新の省エネ設備に置き換えれば、電力コスト削減に効果があるが、全ての設備を置き換え続けることは現実的ではない。既存の設備をいかにコントロールしていくかに注力した方がよほど低コストで改善効果が挙げられるとしている。
「ラインごと、拠点ごとに管理している企業も少なくないが、個々のデータが統合されておらず、またERPの持つ情報とのひも付けが不十分で、戦略的な活用がなされている企業が少ないため、導入してみて初めて高価に驚かれる方も多い」(SAPジャパン ソリューション営業統括本部 BA&T事業開発部 マネージャ 中田淳氏)という。
また、SAPジャパン ローカルプロダクトマネージャ、サスティナビリティ担当 関口恭子氏は「以前から省エネ法対応として電力マネジメントに関心を持つ方は少なくありませんでしたが、今後必要になってくるのはピークを抑制しながら生産性を損なわないような生産計画。この点で、MESやPLCと連携して、電力消費状況や設備稼働実績を可視化するMIIは有効」としている。
DMS展ではこのほか、サスティナビリティをテーマとしたゾーンが設けられ、「SAP Environment, Health, and Safety Management(SAP EHS Management)」を中心にした展示が行われる予定だ。ここでは複数の機能モジュールを持つSAP EHS Managementの中から主要なものを紹介しておく。
カーボンマネジメントについては、全社レベルでのCO2排出量の把握を支援するソリューション「SAP Environment Compliance」がある。GHGプロトコル(The Greenhouse Gas Protocol)に準拠した計算方法でCO2排出量を算出できるもので、同社自身のサスティナビリティレポートでも利用されている(2010年6月のニュース参照)。
また、化学物質管理については「SAP EHS Regulatory Content」が挙げられる。企業への環境配慮の要求は年々高まっており、欧州を筆頭に各国が法整備を進めている。詳細な枠組みはこれから定まってくるものもあり、状況は流動的だが、メーカーごとに独自のルールを策定しながら運用が進んでいるのが現状だ。取引先ごとに調達基準が定められており、それぞれに必要な提出書類フォーマットが異なっている。それゆえにサプライヤ側では、競合に対する自社部品の優位性を保つ上で、いかに効率的に情報を収集・活用・コントロールして取り扱うかが課題となっている。SAP Environment Complianceはこうした企業の要求に対応するための製品だ(2011年3月のニュース参照)。
会期 2011年6月22〜24日
時間 10:00〜18:00(24日は17:00に終了)
会場 東京ビッグサイト
小間番号 東2 ホール 15-14
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