こうした仮想環境上のファームウェア開発の事例として、清水氏はある大学で実施されたプロジェクトを紹介した。
このプロジェクトの目的は、MBDを利用した仮想環境を用いることで、十分な品質を持ったファームウェアを実際に短期間で開発できるかどうかを検証することだ。ファームウェアが搭載される機構は、レゴ マインドストームに光センサーや超音波センサー、音響センサーなどを搭載した「ライントレーサー・ロボット」だ。床に引かれた白いラインを自動的に検知し、それに沿って自動走行するという簡単な機能を持つほか、光や音に反応してさまざまな挙動を示すよう設計されている。
まずは、先ほど紹介したような仮想プロトタイピング環境上でファームウェアの開発を行うわけだが、いきなりプログラムのコードを記述するわけではない。まずは、キャッツ社のCASEツール「ZIPC」を使い、ファームウェアの動作を状態遷移表として記述する。そして、これをMBDで構築したライントレーサー・ロボットの仮想プロトタイピング環境と連携させることにより、ファームウェアのシミュレーションを行うのだ。
このシミュレーションの結果がある程度良好だった場合、初めて実機へファームウェアを組み込んで実機テストを行うが、ファームウェアのコード自体はZIPCが状態遷移表を基に自動生成してくれる。
こうして仮想環境と実機環境によるテストを短いサイクルで繰り返すことにより、品質の高いファームウェアを迅速に開発できるようになるというわけだ。実際、このプロジェクトで開発されたファームウェアも、この手の機構に関してはほぼ素人の学生が作成したにも関わらず、十分な品質を備えたものが出来上がったという。
本イベントを主催したMBD協議会設立準備委員会は、MBD協議会の設立に向けて2010年の秋から本格的に活動を始めたという。その活動趣旨について、清水氏は次のように話す。
「MBDが、実際に製造業のモノ作りに大変役立つものであるということを産業界の方々にアピールできればと思い、今回のセミナーを開催した。さらには、ユーザー・ベンダー・大学が三位一体となってMBDに関する情報を交換できる場として、MBD協議会をぜひ設立したいと考えている」
現在では大学における研究のほかは、主に大企業の開発プロジェクトがMBDの主たる活用の場となっているが、モノ作りの現場で本当に活用されるためには、中小企業における活用も促進していかなければいけないと清水氏は述べる。
「中小企業の方々がMBDを活用できるところまで皆さんの心を動かしたい、というのがわれわれの活動の趣旨だ。しかし、MBDの導入には多大なコストが掛かるのが現状。そのため今後は、MBDのシステムを低コストで共同利用できるような環境を整備していくことが1つのテーマになるだろう」
最後に、清水氏はMBD協議会の正式設立に向けて力強く抱負を述べた。
「今年度後半には、MBD協議会の設立に向けた第2回のセミナーを開催したい。そして、セミナーに参加いただく皆さんの反応しだいではあるが、可能であれば今年度中にはぜひ協議会を正式に発足できればと考えている」(清水氏)。
吉村 哲樹(よしむら てつき)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
CAEベンダーの立場でMBD協議会設立準備委員会に参加し、現在、事務局として会の運営を盛り上げているエヌ・エス・ティ社が第22回 設計・製造ソリューション展に出展する。同社が扱うMBD関連ソフトウェアもチェックしたい。
会期 | 2011年6月22日(水)〜24日(金) |
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時間 | 10:00〜18:00(24日は17:00に終了) |
会場 | 東京ビッグサイト |
ブースNo. | 東1ホール 小間番号17-31 |
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