REACHの制定に至るまでの化学物質規制の国際的な動向を駆け足で見てみましょう。ここで、なぜ上記の特徴を持つREACHが制定されたのか、その背景をうかがい知ることができます。
技術革新とともに、多様な化学物質の大量生産が始まり、1960年代には化学物質による環境への悪影響が国際的に懸念されるようになりました。これを受けて、経済協力開発機構(以下「OECD」といいます)は、環境保険安全プログラムの一環として一連の化学物質対策を実施してきました。この化学物質対策の1つが、1992年からOECD主導で始まった高生産量化学物質点検プログラムです。
同プログラムは、既存化学物質による環境への悪影響を点検する目的で1991年のOECD理事会決定に基づき1992年から開始されており、1国(またはEU加盟国全体)において1年当たり1000トン以上生産される化学物質のデータの収集および評価を行うものです。
他方、1992年に開催された地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)において、環境および開発に関するリオ宣言(以下「リオ宣言」といいます)が採択されました。同時に、リオ宣言の行動計画に当たるアジェンダ21が採択されました。
アジェンダ21の第19章「有害化学物質の環境上適正な管理」は、新規化学物質または既存化学物質のいずれであるかにかかわらず、有害と考えられる化学物質を広く対象とし、化学物質による環境への悪影響を低減するためのさまざまな手段を提言しています。とりわけ、科学的データに基づく化学物質のリスク評価の重要性を強調している点、産業界に対して化学物質のデータ提供を求めている点、化学物質のライフサイクルを考慮に入れたリスク削減を提案している点が特徴的であるといえます。
なお、化学物質のライフサイクルを考慮した規制とは、ある化学物質を含む製品のライフサイクル全体を評価し、総合的に環境への悪影響を低減するという考え方、いわゆるライフサイクル思考を反映しています。そして、ライフサイクル思考とは、設計、製造、マーケティング、流通、販売、使用および廃棄という製品のサプライチェーン全体を見て、各段階において可能な限り環境対策を行うことを目指す考え方です。
リオ宣言から10年目に当たる2002年に、ヨハネスブルグ・サミット(持続可能な開発に関する世界首脳会議)が開催され、リオ宣言およびアジェンダ21における合意が再確認されました。さらに、既存化学物質を含む化学物質の生産ないし使用が人体および環境にもたらす悪影響を2020年までに最小化するという目標が合意されました。
さらに、2006年に化学物質管理会議において国際的な化学物質管理に関する戦略的アプローチ(以下「SAICM」といいます)が採択されました。SAICMを構成するハイレベル宣言では、リオ宣言およびアジェンダ21の合意を受け継いで、化学物質のライフサイクル管理および産業界の協力の必要性が確認されました。
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