さて、Solid Edge上でのアセンブルは簡単だったのだが、実際に製造をすることを考えると、幾つかの問題が浮かび上がってきた。一番の問題は、翼などの厚みである。前述したように今回は、胴体、主翼2枚、水平尾翼2枚、垂直尾翼1枚の合計6パーツでモデリングしている。当たり前だが、作ったら実際にはめ合わせなければならない。そのアタッチメントを作るのが難しいのだ。
今回40分の1で作成したのには訳がある。普段私が使用しているDimension(3次元プリンタ)のワークの大きさの問題だ。今回、最も長いのは主翼である。従って「この主翼がワークに収まる長さ」でということで考えた。
ワークの横いっぱいに作ると、約20cmである。斜めにすれば、もう少し長いものが作れるが、それでは1回に翼1枚だけになる可能性もあり、胴体や尾翼を作ることも考えれば、できるだけワンショットでやりたい。横に並べられる長さということで、20cmにした。しかし、2つ並べれば40cmである。意外に長い。
ところで、翼は非常に薄いものである。特にグライダーの翼は軽飛行機などと違ってアスペクト比がとても大きいので、対長さでの厚みは非常に薄いものとなる。結果として、一番大きな主翼の根本の部分でも、厚さが3mmもなく、それが両端に向かってゼロになっていく。とてもではないが、Dimensionで何かを差し込むような穴をモデリングすることは難しい。
さらに、その翼の薄さにも最後までたたられた。Dimensionのモデルの作り方は熱せられて溶けたABS樹脂を糸のように積み上げていくのだ。あまり薄いと、このレイヤーが重ならずに糸のようになって離れてしまう。仮にうまくモデリングをすることができても、サポート材を剥がすときに壊れてしまう可能性もある。主翼を一体にして、上から胴体にかぶせることも考えたが、一体にすると、そもそも長さをさらに短くすることを考えなくてはならない。
時間があったらもう少し、Dimensionの特性も考えながらどのようにアセンブルするかを考えたが、時間もなかったので取りあえずは形を作って、実際の接続については、物ができてから考えることにした。取りあえず、断面に穴を開けて、そこに穴を差し込んでつなぐことで、単なる接着よりも強度を増すことは考えたが。
できるだけサポート材を少なくし、造形時間を短くしながらも、きちんと翼の断面も造形されることを考えながら部品の配置は以下(図9)のようにした。
見て分かるように、尾翼については、1パートとして一体成形することにした。あまりに薄過ぎて、バラバラに作ってアセンブルするのが大変そうだったからである。普通のプラモデルであれば、まだ大丈夫であろうが、樹脂の糸を積み上げて作ったRPのモデルでは、ちょっと力を入れて、非常に薄いものに力を掛けたら、簡単に壊れてしまう可能性もある。そこで、そのようなリスクを少なくすることにした。無事にデータのセットアップができたので、後は機械にまかせて自分は家に帰った。
翌日の朝、事務所にきて最初にやったのは、もちろんDimensionの中身(図10)の確認である。
ひとまず、無事に出来上がっているようである。問題は、ここからだ。主翼や尾翼を剥がすときには特に気を付けないと、壊してしまう可能性がある。実際、尾翼に関してはあっさりとサポートが取れてくれた。部品本体とサポートの接着面積が小さいせいであろう。苦労したのは、主翼である。全面にべったりとサポートがついている。かなり注意して、剥がしてはみたものの、結果としては、Trailing Edge(翼の後ろ側のエッジ)が糸状に剥がれてしまった。もっとも、これはDimensionを使う上で覚悟はしていたので、それほど驚きはしなかった。
実際に、このグライダーを見た別のモデラーさんは、「もう少し小さくしてデジタルワックスでやったら、とてもきれいにできるかも」と言ってくれた。別のRP機を使えば、このあたりはきれいにできるかもしれない。
とはいえ、目的のわが青春のグライダーはしっかりと形になった。RPは「Rapid Prototyping」。要するに「試作」なのである。まずは形として検証することができた。Dimensionでやるにしても、もう少し部品を小分けにしたり、より大きなスケールモデルにしたりで、結果は変わってくるかもしれない。あるいはこのような形状には別のRP機を作ってもよいかもしれない。しかし、ラジコン化するには、RPでやるにはちょっと金が掛かり過ぎるような気もする。
最後に、このモデルを見た3D-GANの会員のモデラーさんが言ってくれた一言がうれしかった。
「とってもきれいな形ですね」
そう。飛行機は、なかんずく、グライダーはとても美しいのだ。実物は私の写真で見るよりも、はるかにきれいだ。
なぜこんな形をしているのか。まさに「滑空する」という機能のために最適化された形状だ。形をまとった「滑空する」という機能……。あらためて、自分で眺めてみても、美しいと思った。
今度はもっと時間を取って、細かいところまで作り込みたい。
実のところ、このシリーズで作ったものは、本来Solid Edgeが持っている機能に対して、あまりにも簡単である。実際に皆さんがSolid Edgeを触れば、非常に高度なことができるツールであることは、すぐに分かるだろう。
今回の記事の目的は、「まだ3次元でのモデリングをしていない人にも、その楽しさが伝えること」を目的にしている。だから、使い込んでいる人にはもの足りないかもしれない。
しかし、本当に自分がやりたい、自分のためのモノづくりを普段できていないのであれば、これを機会にぜひチャレンジしていただきたい(最後に……。シーメンスさん、早くレンタル版のリリースを開始してくださいね)。
(終わり)
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