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» 2011年03月09日 11時00分 公開

自動車の騒音もトンボの羽ばたきもCAEが解く踊る解析最前線(7)(2/3 ページ)

[吉村哲樹,MONOist]

 現在の研究内容について、飯田氏はこのように説明する。研究を進めるに当たっては、実際の車体を使った風洞実験と、CAEによるシミュレーションを併用している。シミュレーションの中心となるのが、有限要素法を用いた空力の流体解析だ。ソフトウェアには、東京大学 生産技術研究所の加藤 千幸教授が開発した「FrontFlow/blue」を利用している。これは、文部科学省が進める「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクトの一環として開発されたものだ。これに、ヴァイナス社のメッシュジェネレータ「GridGen」とポストプロセッサソフトウェア「FieldView」を組み合わせて運用している。

photo PIV(Particle Image Velocimetry)を用いた風洞実験
動画 コンター図

 解析データの規模は、キャビティ(自動車のへこみ)の解析で200万要素、ファン装置の解析で600万要素ほど。ただし、企業や他大学との共同プロジェクトになると、数千万から1億程度の要素数にまで及ぶこともあるという。

photo キャビティ音の解析
動画 キャビティ音の解析
動画 キャビティ音の解析
動画 ファンのケーシングを考慮した音響解析結果:左はケーシングあり、右はケーシングなし
動画 ファンの流れの解析結果

 また音響解析には、同じく加藤氏が開発した「FrontFlow/blue-ACOUSTICS」というソフトウェアを利用している。音響解析の分野は近年目覚ましい発展を遂げており、特にここ数年間で、「音の広がり」を解析できる音場解析が実用化され、普及しつつあるという。

 「音場解析の技術自体は10年前から存在したが、解析対象となる現象の範囲が広く、解析規模が大きくなるため、以前のコンピュータ環境では扱えなかった。それがここ数年の間に計算精度が飛躍的に向上したため、広く使われるようになってきた。また、流体と音響の連成解析も徐々に行われるようになってきている。われわれも、例えば自動車のサンルーフの空力騒音など、限られた範囲の解析であれば、連成解析を行えるようになってきている」(飯田氏)。

官学共同で開発されたフリーの解析ソフトウェア

 ちなみに、「FrontFlow/blue」および「FrontFlow/blue-ACOUSTICS」は、前述したとおり、文部科学省が主導するプロジェクトの一環として開発されたものであり、ユーザーはライセンスフリー(無償)で利用することができる。このことが持つ意味は非常に大きいと飯田氏は言う。

photo

 「市販のCAEソフトウェアは、ライセンス料が非常に高価な点がネックだ。ハードウェアの性能は年々向上しているのに、ソフトウェアのライセンスが高額なために、ハードウェア性能を生かし切ることができないケースが非常に多い。また、市販のCAEソフトウェアはほとんどが海外製なので、高額なライセンス料はすべて海外に吸い取られてしまう。そこで、ソフトウェアは国の支援と大学の研究でフリーのものを提供し、ハードウェアは日本メーカーが提供することで、産業振興の効果が生まれる。当然、無償であれば、ハードウェアの性能を使い切るまでソフトウェアを導入・活用することができるので、より高度な解析を行うことが可能になる」(飯田氏)。

 また同氏は、日本におけるCAEの活用が海外に比べて遅れている原因の1つとして、メーカー同士の共同プロジェクトが少ない点も挙げる。

 「例えばヨーロッパでは、アウディとBMWが共同で大規模なシミュレーションを行っている。また、さまざまなコンソーシアムで自動車メーカー同士が共同でプロジェクトを立ち上げている。メーカー同士が協力すれば、より高性能なコンピュータリソースを使った高度な解析が可能になるはずだが、日本の自動車業界ではそうした動きはなかなか起きそうにない」(飯田氏)。

 ただし日本においても、こうした状況を打破できるかもしれない大きなイベントが控えている。それが、文部科学省が中心となり開発が進められている次世代スーパーコンピュータ「京(けい)」(以下、次世代スパコン)の実用化である。さまざまな分野の研究や開発に活用されることが期待されているが、自動車の空力騒音の分野でも、この次世代スパコンを使った大規模な解析にチャレンジする予定だという。そのために現在、飯田氏らは自動車メーカー各社にプロジェクトへの参加を呼び掛けているという。次世代スパコンがきっかけとなり、日本では初となる自動車メーカー各社による大型共同プロジェクトにまで発展する可能性もある。

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