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» 2011年02月25日 11時11分 公開

造船業のCAD&CAE活用、ただいま進化中!踊る解析最前線(6)(2/2 ページ)

[吉村哲樹,MONOist]
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3次元CADのモデルをCAEの解析用途に活用

 有限要素法による構造解析自体は、造船の世界では古くから行われている。船体には、貨物の荷重や波の力など、さまざまな外力が発生する。これらに耐え得るだけの強度を確保するためには、鋼板の厚さをどれぐらいにして、それをどのように配置すればいいか。あるいは、機関部で発生する振動を抑えるには、どのような船体構造にすればいいのか。かつてはこうしたことを、船体の一部分だけを抜き出したごく簡単な2次元モデルを基にFEM解析を行い、算出していた。

 しかし現在では、3次元モデルを基にしたより高度な解析が行われている。解析の対象も、「船全体を丸ごと」とまではいかないにせよ、徐々により広い範囲を対象に解析が行えるようになってきているという。

 また、造船業界では船舶の設計ルールが第三者機関によって定められており、これに対応するためにもFEM解析はなくてはならない存在になっている。造船企業が製造する船舶は、その設計内容が「船級協会」という機関の審査をクリアして、初めて製造に移すことができる。船級協会は世界各地に存在し、船舶が満たすべき船体構造の要件を「船級規則」として定めている。造船企業が船の設計を行う場合には、このルールに従う必要があるが、さらに船の構造設計に際してFEM解析を行うようにも定められており、その際のメッシュのサイズや許容応力などもガイドラインとして提示されている。

 さらには、各船級協会からFEM解析のためのソフトウェアまでもが提供されている。設計審査をクリアするためには、このソフトウェアでFEM解析を行うことが必須となりつつある。

 こうした解析を行うためには、ソフトウェアに投入する3次元モデルのデータが当然必要になる。ユニバーサル造船ではこのデータを作成するためのモデリング作業を、社外の協力会社へも委託している。三浦氏は、ここに目を付けた。

 「3次元CADで扱うのは3次元モデル。FEM解析で使うのも3次元モデル。ならば、3次元CADのモデルがFEM解析でも使えるようになれば、モデリングを社内で手早く行えるようになるのではないか?」(三浦氏)。

 早速、CAEベンダの協力の下、検討を始めた。目指したのは、3次元CADのAVEVA MarineとCAEソフトウェア「TSV Pre」(テクノスター社)の連携システムだ。AVEVA Marineからエクスポートした3次元モデルのXMLデータを一部加工してTSV Preに取り込み、そのままFEM解析に掛ける。ベンダの技術支援を受けながら検証を重ねた結果、ほどなくしてこのような連携が実現した。

 こうしたCAEは、造船業界においては極めて大きな意義があると三浦氏は力説する。

 「造船がほかのモノ作り分野と大きく異なるのは、試作ができないことだ。長さ約9mの模型を作り300m程度の試験水槽の中で引っ張って推進性能を測ったりはするが、船の中身の試作はとてもできない。従って、いわゆる“攻めの設計”になかなかチャレンジできないのが実情だ。これが、CAEによるシミュレーションでさまざまな仮想実験が可能になれば、設計の幅が大幅に広がるはずだ」(三浦氏)。

揚重(ようじゅう)作業のシミュレーションを実現

 こうして実現したAVEVA MarineとTSV Preの連携は、「揚重計画支援ソフト」という具体的な形に結実した。

 船の製造は通常、船全体をいくつかのパーツに分割した「ブロック」という単位で行われる。まずは各ブロックを屋内の工場で製造し、完成したらそれをクレーンでつり、屋外のドックに運び込む。そしてドックの中で、それらを組み合わせて船全体ができ上がるのだ。このつり上げる作業が揚重である。船の製造工程における揚重の検討は、極めて高度なノウハウを要する。

photo 揚重作業

 この、ブロックをクレーンでつり上げてドック内に運び込む揚重作業の計画には、極めて高度なスキルを要する。巨大タンカーの船体の一部ともなれば、その重量は数百トンにもなり、大きさも半端なものではない。しかも、1つ1つのブロックは形も違えば、鋼板の厚さも異なる。これを正確に重心バランスを取りながらつり上げ、しかもほかのブロックや設備に干渉しないように移動させ、さらに正確な位置に搭載するための検討には、熟練が必要だ。

 しかし、こうしたノウハウは通常、ベテランの頭の中だけにあり、なかなか若手に引き継がれにくい。こうしたスキルの属人化は、ユニバーサル造船の多くの製造現場で問題視されていたという。

 そこで、今回新たに開発された揚重計画支援ソフトでは、AVEVA Marineから船体ブロックの設計データをTSV Preにインポートし、そのうえで揚重作業のシミュレーションを行うことを可能にした。それも、単なるシミュレーション計算だけではなく、アニメーション動画でシミュレーション結果を視覚化できるのが大きな特徴だと三浦氏は言う。

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揚重計画支援ソフトの画面:説明(デモ)用画像のため、実際の検証とは異なります(画像クリックで拡大します)

 「実は、この手のソフトウェアはほかにもいくつかあるが、アニメーションで表示できるのは揚重計画支援ソフトだけだ。刻々変わっていく荷重やブロックの姿勢をチェックするといった動的なシミュレーションも自在にできるのが、ほかのソフトウェアにはない特徴だ」(三浦氏)。

 同社には全国に複数の事業所があるが、すでにいくつかの事業所でこのシステムが導入され好評を博しているという。しかしその一方で、ベテランの揚重作業担当者がいる事業所では、いまひとつ反応が悪いのも事実だと三浦氏は明かす。

 「具体的な危機感を抱いている事業所と、そうでない事業所との間で、モチベーションの隔たりが大きいと感じている。3次元CADでもそうだったが、この辺りはもっと積極的に現場部門に訴えかけて、3次元モデルを活用することのメリットを喚起していかなくてはいけないと感じている。その結果、将来を見据えたうえで『いま、何が必要なのか?』という視点を現場部門が持ってくれれば、設計部門としてもモデリング作業のための労は惜しまないつもりだ」(三浦氏)。

 同氏は今後も、造船における3次元モデルの活用法を模索し続けるという。そのためのアイデアのネタは、いろいろなところに転がっている。

 「最近では、3次元プリンタも随分進んできているので、3次元CADと連携させれば船の立体モデルもできるようになるかもしれない。船の構造は、外壁をはいで内部をのぞくことができれば理解が深まると思うので、これは有用だと思う。あるいは、映画からヒントを得ることもある。例えば、スターウォーズでジェダイの騎士の会議がホログラムで行われているシーンを見て、ホログラム技術の可能性について考えたりもする。それこそあらゆるところにヒントはあり、いろんな情報を蓄えていって、今後も3次元データの可能性にどんどんチャレンジしていきたいと考えている」(三浦氏)。

Profile

吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


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