従来比で損失を70%低減した「フルSiC-IPM」――三菱電機の『研究開発成果披露会』から(その1)

» 2011年02月21日 00時00分 公開
[EDN Japan]

 三菱電機は2011年2月、東京都内で開催した『2010年度研究開発成果披露会』において、スイッチング素子とダイオードの両方にSiC(シリコンカーバイド)デバイスを用いたIPM(インテリジェントパワーモジュール)「フルSiC-IPM」を公開した。主に、エレベータや太陽光発電システムのパワーコンディショナ、大容量の産業用機器などの用途に向けて開発を進めている製品である。三菱電機社長の山西健一郎氏(写真1)は、「現在、実用化に向けた評価作業を、社内ユーザーだけでなく外部顧客とも進めている」と述べている。


写真1 三菱電機の山西健一郎氏 写真1 三菱電機の山西健一郎氏 
写真2 「フルSiC-IPM」のサイズ比較 写真2 「フルSiC-IPM」のサイズ比較 左がSiデバイスを用いた三菱電機のIPM「PM300CLA120」、右がフルSiC-IPM。

 IPMとは、一般的なインバータ機能を実現する回路に加え、インバータの駆動回路や保護回路を1つのパッケージに収めたモジュール製品のことである。フルSiC-IPMでは、インバータのスイッチング素子にSiC-MOSFETを、ダイオードにはSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)を用いている。このことにより、IGBTやSi(シリコン)-FRD(ファストリカバリダイオード)などのSiデバイスでインバータを構成する既存のIPMと比べて、小型化とインバータ動作時の損失の低減を実現した。今回発表したフルSiC-IPMは、耐圧が1200Vで、定格電流が300A。これと同じ耐圧/定格電流で、Siデバイスを用いた同社のIPM「PM300CLA120」の外形寸法は172mm×150mm×24mmである。これに対して、フルSiC-IPMの外形寸法は120mm×85mm×30mmで、容積比でほぼ半分となっている(写真2)。また、インバータ動作時の損失については、PM300CLA120と比べて約70%低減できているという。 


図1 「フルSiC-IPM」の回路構成 図1 「フルSiC-IPM」の回路構成 

 フルSiC-IPMに用いているSiC-MOSFETとSiC-SBDは、同社がパワーデバイス製作所(福岡県福岡市)内に設けたSiCデバイスラインで製造したものである。

SiC-MOSFETは、IPMに搭載されている保護回路に電流を出力するための電流センス回路を内蔵していることを特徴とする。三菱電機によれば、「IPMには、接続先である負荷側の動作の変動によって発生する過電流に対応する機能は必須のものだ。過電流に対応するには、入力された電流の一部をスイッチング素子から保護回路に対して分流する必要がある(図1)。電流センス回路はこの分流に使用するものであり、同回路を内蔵するSiC-MOSFETの開発事例は世界初となる」という。

 なお、フルSiC-IPMの駆動回路や保護回路を搭載する制御基板は、Siデバイスやディスクリート部品などで構成されている。このため、フルSiC-IPMの動作温度範囲は、Siデバイスを用いたIPMとほぼ同じであると見られる。

写真3 「霧ケ峰ムーブアイ」の室外機の制御基板 写真3 「霧ケ峰ムーブアイ」の室外機の制御基板 SiC-SBDを用いた挿入部品型のIPMが搭載されている。
写真4 フルSiCパワーモジュールを適用したパワーコンディショナ 写真4 フルSiCパワーモジュールを適用したパワーコンディショナ 

 今回の研究開発成果披露会では、フルSiC-IPMのほかに、SiCデバイスを用いた機器の開発事例を2件紹介していた。1つは、SiC-SBDを用いた挿入部品型のIPMである。同IPMは、2010年10月発売の同社ルームエアコン「霧ケ峰ムーブアイ」の室外機に搭載されている(写真3)。SiC-SBDの採用によって、インバータ動作時の損失を従来比で15%低減している。もう1つは、太陽光発電システムのパワーコンディショナ向けに開発した、フルSiCパワーモジュールである(写真4)。同モジュールを出力5kWのパワーコンディショナに適用することで、98%の電力変換効率を達成した。これに対して、Siデバイスのパワーモジュールを用いた同じ出力のパワーコンディショナの電力変換効率は96%であることから、電力損失を半減できたことになる。

(朴 尚洙)

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