阪大、初の日本一! ほんまに車が好っきやねん第8回 全日本 学生フォーミュラ大会 レポート(4)(2/3 ページ)

» 2010年11月05日 00時00分 公開

エンジンのドライサンプ化

 いま以上の走行安定性を確保するために、さらにエンジンの搭載位置を下げることができれば……と考え、その目標達成のために導き出された答えが「エンジンのドライサンプ化」であった。

 それなりに詳しい方でなければドライサンプという表現は聞き慣れないと思うが、実はレース車両では多く採用されている「エンジンの潤滑方式」のことである。

 一般的な乗用車に使用されている潤滑方式はウェットサンプという方式だ。これはエンジン最下部に設けられたオイルパンにオイルだまりを設け、そこからオイルをくみ上げてエンジン各部へと供給する方式である。各部に供給されたオイルは基本的に自然落下によってオイルパンへ戻るため、高回転エンジンやサーキット走行などで強烈な遠心力が働くような場合ではオイルをくみ上げる際にオイル不足が発生したり、エアの混入が生じたりしてしまう。これはつまり、エンジン破損に直結する重大な問題である。ドライサンプ方式では遠心力に関係なく強制的にオイルを回収・圧送することができる構造となっている。

 このように潤滑の安定化をメインに考えてドライサンプを採用する例はいまでも量産車で見られるが、大阪大学は低重心化に焦点を当ててドライサンプ化を行った。

 実はドライサンプ方式はウェットサンプ方式に比べてオイルだまりの必要性が非常に少なく、つまりオイルパンを薄くすることができるのだ。オイルパンを薄くした分、エンジンの搭載位置を下げることが可能となるので走行安定性が向上するということである。しかしすでに完成している量産エンジンをドライサンプ化することは容易ではない。

 まずはウェットサンプ時のオイルポンプ容量を上回る能力が必要となるため、大阪大学はウォーターポンプの軸を利用してオイルポンプを3個設置。これによって従来のウォーターポンプが使えなくなるため、ウォーターポンプは汎用のモータを使用して電動化して対応した。

ドライサンプ化によるオイルポンプ増設・位置変更

ツールに依存しない

 いうまでもなく、存在していない部品を作るということは設計・解析が伴う。大阪大学でも3次元CAD(SolidWorks)と解析ソフトウェア(SCRYU/TetraやGT-POWER)を活用している。ほかにも動的解析ソフト(VIグレード)を徐々に導入しているということだが、まだまだ本格的に活用できるレベルには至っていないとのことだ。

 チームの考え方によってこれらのツールへの依存度は変わってくると思うが、大阪大学は必要以上に使っていないという。主に現物での検証・テストによって現状把握をしっかりと行い、改善を繰り返すという最も原始的だが最適な手段だと考える。

工作機械

やれるものならやってみろ!?

 ドライサンプ化による低重心化はスキッドパッドや耐久走行にて3位という大きな成果に結び付く要因となったが、ほかにもタイムアップに直結する工夫が施されていた。MT車を運転したことがある方であれば誰でも想像できると思うが、クラッチ操作を伴うシフトチェンジには確実にタイムロスが発生する。そこでシフトチェンジにクラッチ操作を必要としない加工を施し、見事アクセラレーション(加速性能)において1位を獲得したのだ。

 すべての工夫を紹介できないのは非常に残念であるが、浪速Xは彼らの努力の結晶であり、見よう見まねで作れるものではないことを痛感した。「しょせん、学生が作ったレベルだろ?」と思ってしまう諸先輩方もいると思うが、彼らはきっと、

 「やれるもんならやってみろ!」

と口をそろえていうに違いない。

走行中の浪速X

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