本連載では、第1回でS&OPプロセスの概要をご紹介し、第2回以降4回にわたって、経営者が直面する重要な経営課題を取り上げ、その有効なソリューションとしてのS&OPについて紹介してきました。本稿では、本連載のまとめと、日本企業へのS&OPの普及に向けたヒントを考えてみることにしましょう。
ついこの間、カジュアル衣料ユニクロを展開するファーストリテイリングやインターネット商店街の楽天が、社内の公用語を英語にするとのニュースが流れていました。 インターネットの検索エンジンで「公用語 英語 企業」を引くと、数十万件がヒットします。
検索結果から個人の意見を見てみると、さまざまな反応があるようです。例えば、
「ろくに仕事もできないのに、英語だけ流暢(りゅうちょう)に話す『英語屋』が幅を利かせることになり、組織の活力をそぐことになる」といった否定的意見や、「グローバルランゲージである英語さえ話せれば、さまざまな言語を持つ人々と効率的にコミュニケーションができる」といった肯定的意見のほか、「英語が話せなければ、これからユニクロで買い物をすることはできなくなるのか」という仰天質問も飛び出すなど、英語を公用語とすることへの議論が、にわかに熱を帯び始めています。○言語以外に重要なものがある:公用語は必要条件ではあるが十分条件とはならない 同一の言語で会話ができるからといって、ビジネス上のコミュニケーションがうまくいくわけではありません。日本国内で日本語を用いていても、ビジネス上のコミュニケーションが難しいことからも、これは容易に理解できることです。
東京三菱銀行(現、東京三菱UFJ銀行)の米州本部がバランスト・スコアカード(BSC)を採用した大きな理由の1つに、「戦略のコミュニケーション」があります。
一般に、邦銀の経営戦略は、他国の銀行と比較して見えにくいと評されています。
参考文献によると、その要因に「必ずしも言語によらずとも組織の文脈を通じて戦略的意図が伝達されやすいという日本企業の文化的な特性」があるとされています。
ところが、そうした見えにくい体質を持った邦銀であっても、海外展開に伴って、現地行員のみならず、現地監督当局、現地投資家などを含めた海外のステークホルダーにも分かりやすいように戦略を明確にコミュニケーションする必要性に迫られたのです。ウォールストリートでハンティングした異文化の人材間での戦略のコミュニケーションを助けるツールとして、BSCと戦略マップ(BSCの文法に基づいて、戦略を見える化するチャート)を採用したというケースが報告されています(参考文献1)。
図1に示すように、グローバル・ビジネスの有効かつ効率的な運営にとって必要なコミュニケーション手段は、英語などの公用語のみでは十分とはいえません。
日本を代表するある製造業では、毎朝の朝礼で現地の言葉に翻訳された社歌を合唱しており、またある外資系のグローバル製造業では、現地の言葉に翻訳された手帳サイズのカードにまとめられた企業理念である「クレドー(我が信条)」を全従業員が携帯しています。ここで興味深いことは、先ほどの「英語を公用語に」ではなく、現地の言葉を使用している点でしょう。
前述したように、東京三菱UFJ銀行の米州本部が、邦人経営陣と現地上級管理職や現地行員との戦略のコミュニケーションに「戦略マップ/BSC」を活用している例が報告されています。
欧米の多くのグローバル企業が、戦術レベルのバリューチェーン情報の共有と意思決定に「S&OPプロセスとS&OPダッシュボード」を活用しています。 このサプライチェーンのグローバルランゲージとしてのS&OPのパワーも、本連載第3回で紹介した「S&OPの7つのパワー」の1つ「グローバル調整力」を活用したものです。それほど強力なソリューション・パワーを持つS&OPについて、おさらいをしてみることにしましょう。
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