ここで、樹脂の収縮特性について考えてみましょう。樹脂は冷却される過程で、体積の収縮を伴いますが、この収縮量は樹脂の種類、冷却スピード、その部位の樹脂の密度などによって左右されます。特に冷却スピードに着目すると、厚肉部分では中心部まで固化するための時間が薄肉部よりも長くかかります。すなわち、厚肉部はゆっくり冷却されるために収縮量が大きくなり、薄肉部は速く冷却されるために収縮量が小さくなります。このように、肉厚差が収縮量の差となり、結果としてはソリ変形の要因となるのです。
さて、このモデルの上側の部分は、厚肉な設計となっているため、その中心部まで冷やすのに時間がかかります。ところが、その下側に付けられたリブの部分は薄肉なので、すぐに冷却され、収縮量もごく少なめです。そのため厚肉部のフランジ側はゆっくりと大きく収縮していくのに対し、一足先に冷えて固化したリブはフランジ部と同量の収縮にはならずに、突っ張り棒のようにソリ変形を発生させる要因となってしまったのです。以上で凹状のソリ変形が発生したメカニズムが理解できたかと思います。
本連載では、「樹脂成形品の肉厚は製品設計段階で考慮すべき問題」であり、しかも「できるだけ均一であることが望ましい」という話をしてきました。それはこの収縮量の差を解消するうえでも重要なことです。しかし現実には、プラスチック製品として設計されるものが、それほど単純な形状のものばかりではありません。どうしてもある程度は複雑な形状で、かつ肉厚が不均一なものも作らざるを得ないでしょう。だからこそ、自分が設計したものが後工程で問題を引き起こさないか検討し、できる限りこうした問題点を把握しておくべきなのです。流動解析ソフトを使って充填パターンを見るだけでも、こうした不具合はある程度察知できますし、ソリ変形の解析も先ほど説明したとおり、決して難しいことではないのですから。
では、当初のリレー上部筐体のモデルに戻って、このモデルにおけるソリ変形の原因と対策について検討してみましょう。もう一度、図Dのモデルをご覧ください。この内側へ曲がり込んでいくようなソリ変形がどのようにして発生したのか、先ほどのソリ変形発生の仕組みを基に考えてみましょう。ソリ変形の原因であろう縦リブ部分は肉厚であるため冷えにくく、その分大きく収縮します。ところが、周りはどこも薄肉ですから、こちらは早く冷却されて収縮量はそれほどでもありません。結果、このリブ部分とそのほかとで収縮量に大きな差が生まれ、リブが付いている内側に引っ張り込まれるようにソリ変形が生まれてしまいました。では、このソリ変形の問題を解決するには、どうすればいいのでしょうか?
「問題は、リブの厚肉にある」ということは、ここまでの検討によって明白です。そうであるならば、この厚肉をなくすことは無理にしても、少し抑え目にすることはできないでしょうか。そうやって、ほかの薄肉部と収縮量に差がつかないようにしてやればいいわけです。もちろん突起自体を取ってしまえば一番簡単なのですが、それができない場合は、いわゆる「肉抜き」という手法が使われます。厚肉な突起部の内側の部分をそぐ(=肉抜きする)ことによって、その部分のボリュームを減らし、ソリ変形の発生を解消してやるわけです。早速、モデルの厚肉部の中央部分を、縦に真っすぐ肉抜きをしてみました(図F)。
1本の肉厚な突起だったところが、2本の細い突起に変わった感じですね。
では、この肉抜きで形状変更したモデルを使い、充填パターンとソリ解析を行ってみましょう。まず(図G)が肉抜きしたモデルの充填パターン(65%)です。
形状変更前の充填パターンと比較すると、はるかに均一に充填が進んでいますし、ソリ変形もほぼ解消され(図H)、突起部間の寸法も24.6mmと公差範囲に収まりました。
このように、設計者が樹脂流動解析ソフトをうまく活用することで、肉厚を調整して体積収縮をコントロールし、ソリ変形の発生を抑えたり、肉厚で樹脂の流れをコントロールしてウェルドラインを目立たなくしたり、といったことが十分可能になります。
少なくとも、自分の設計した成形品のモデルが出来上がったら、まず流動解析に掛けてみる。そして、おかしな充填をするフローリーダーがないかチェックする。――それだけでも非常に大きな効果が期待できるのです(次回へ続く)。
執筆・構成:柳井 完司(やない かんじ)
1958年生まれ。コピーライター、ライター。建築・製造系のCAD、CG関連の記事を中心に執筆する(雑誌『建築知識』『My home+』(ともにエクスナレッジ社)など)。
監修・資料提供:オートデスク マーケティング 笹谷 一志(ささや かずし)
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