国際安全規格から見るサービスロボット産業Windows Embeddedセミナーレポート(4)(2/3 ページ)

» 2010年02月12日 00時00分 公開
[八木沢篤@IT MONOist]

国際安全規格の示す安全とは?

 ここで木村氏は国際安全規格の示す安全について解説。国際安全規格における安全の考え方については「リスクという概念で安全を考える」もので、そのリスクは、

リスク = 障害の酷さ × 発生確率( × 回避確率)

で求められるという。

 さらに「安全は許容できないリスクからの開放」と定義されている点を挙げ、「少しのリスクが残ることは仕方ない(=絶対安全は存在しない)ということが認められている」(木村氏)。これまでの安全に対する考え方は、「絶対安全でなければならない」というものだったが、この絶対安全にこだわるあまり失敗した例があるという。

 それは、「原子力発電所だ」(木村氏)。「国は当然のように絶対安全を求めていたが、工業製品を考えてもらえば分かるとおり、絶対安全はあり得ない。常に新品と同じであるということは考えられない」(木村氏)。国際安全規格でいう安全は“許容できないリスク”であるため、「放射能が漏れていなければ、多少の傷やひび割れは許容される」と木村氏。つまり、傷やひび割れがあったとしても、「きちんと次のメンテナンスの段階で対応(修理・交換など)できれば、国際安全規格上は安全とみなされる」(木村氏)ということだ。「絶対安全を下手に使ってきたため、一度事故を起こしてしまうとなかなか再開できないといった事態が実際に起きている。最近では確率的な安全の考えを原子炉でも取り入れる動きがあり、近隣住民に対してもきちんと説明し、理解してもらう動きがようやくはじまった」(木村氏)。

 この原子炉の例と同様のことが、サービスロボットにもいえるという。「サービスロボットは多様であるため、どういう事故が起こるかを予測することは難しい。ちょっとした事故で『サービスロボットは危険』と判断されてしまうと、われわれの生活をより豊かにする可能性を秘めたサービスロボットの発展の芽をつみかねない」と木村氏は言及する。

 さらに、国際安全規格の示す安全について、重要な2つの原則といくつかのポイントを紹介した。

国際安全規格の示す安全 画像7 国際安全規格の示す安全

 1つは「現段階における最先端・最高の技術で安全を守ること(State of the artの原則)」。そして「経済的合理性を基に最もリスクを下げること(ALARP:As Low As Reasonably Practicalの原則)」だ。これら原則について木村氏は「最先端技術を駆使し、1台1億円という価格で安全を実現するものではなく、すべての人がその技術を使える程度の価格設定で、かつ、その範囲で最高の技術で安全を守ることが大切だ」と語った。また、木村氏は設計者の頭を悩ませるものとして、「合理的予見可能な誤使用による事故は設計者責任である」と定められている点を挙げた。利用者が設計者の意図しない使用をしたために事故が発生したとしても、それが誰でも起こすような事故であれば設計に問題があるとされる。

国際安全規格での安全設計手順 画像8 国際安全規格での安全設計手順

 では、国際安全規格での安全設計手順はどのような点に配慮する必要があるのだろうか。その主な手順について木村氏は次のように説明した。まず、どこが危ないかをチェックし、リスクの見積もりをする(リスクアセスメント)。次の段階で、(1)本質安全設計(モータの出力を小さくできないか、危険なすき間を広くできないか、使う電圧を下げることができないか)を行う。ここまでしてから、(2)カバーの設置などによる防御でリスク回避を行う。そして、それでもリスクが残る場合は(3)利用者に使用上の注意を促す。開発元は、利用者から報告された残留リスクを受け入れ、把握・管理し、さらなるリスク回避策を検討・実施する。「さらに、利用者からのリスク報告を設計側にフィードバックすることが大切。このサイクルが回ることでリスクが減っていく。機能安全(コンピュータ制御安全)についても、同様にはじめにリスクアセスメントをきちんと行うことが重要である」(木村氏)。

国際安全規格を押さえておかないと

 現在、世界的に国際安全規格への対応が進んでいる。この変化がビジネスに与えた例として、木村氏はシンガポールがJISからIECへと変更したことで、日本の2層式洗濯機が輸出できなくなった例を紹介した。「国内でOKだからといって、国際展開しようとすると大変な目に合うかもしれない」(木村氏)。

2層式洗濯機が輸出できない 画像9 2層式洗濯機が輸出できない

 現在、日本国内でも安全に対する見方が変わってきたという。その要因の1つが「消費者生活製品安全法改正により、重大事故の報告と公表の義務化がはじまったこと」だと木村氏は話す。「利用者の安全に対する意識・要求が高まり、設計者が抱える責任は大きくなった。そのため、安易に『うちの製品は絶対安全ですよ!』とはいえない」と木村氏。

安全の風を受け、成功の岸へ向かう

 サービスロボットに関する法律や規格が現在検討されているが、どうしても技術の後追いになってしまう。当然これらが整備されてからサービスロボット開発に着手してもいいが、先行して開発したいといったケース(ロボットベンチャーなど)もある。「この場合、普遍的な価値観に基づいた安全設計が重要だ」と木村氏は説明する。

安全の判断基準 画像10 安全の判断基準

 また、せっかくアイデアを形にし、サービスロボットを製品として市場に出しても、厳しい競争にさらされる。そして「そこには必ず安全の風が吹いている」(木村氏)という。この風をきちんと受けて進まないと市場での成功の岸へはたどり着けない。「製品化の段階で、国際安全規格(風)を考慮した設計をしなければ、多様性のあるサービスロボット開発での成功は難しいだろう」と木村氏は述べた。

製品市場化の死の谷とダーウィンの海 画像11 製品市場化の死の谷とダーウィンの海
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