今回紹介する質問の内容は、「〜」や「▽」など、60年近く前に生まれた古いJIS表記がメイン。あなたの職場では、まだ使っている?
今回「技術の森」から紹介するのは、前回同様で製図の話題だ。そこで今回も技術士(機械部門)の山田 学氏に登場いただき、コメントをいただくことにした。
これから紹介する質問の内容は、「〜」や「▽」など古いJIS(日本工業規格)表記がメインになっている。「えっ!? いまだにソレを使っているの!?」「手描きの図面ではよく見たけれど」と思う人も中にはいるかもしれない。しかし、いまの機械設計現場にも、古いJIS表記が結構残っているもの。皆さんの職場では、どうだろう?
「私の主催するセミナーでアンケートを取ると、いまだに古いJIS表記を使っているという人が多いです」(山田氏)。
また山田氏がいうには、大企業ほど昔の記号から抜けられないものだという。小さい企業ならそれなりに組織が小さいため、鶴の一声さえあがれば、どうにか一斉に変えられるもののようだ。
「特に大手企業だと、孫受け、ひ孫受け、はたまたひひ孫受け……というふうに、とにかく取引先がたくさんいるので、JISが改正されたからといって、その都度、下々まで一斉にルールを変えることは現実的に難しいでしょうし」(山田氏)。
製造業の中で製図の規格化が一番しっかりしているのは、世界と取引するのが通常である自動車業界だといわれるが、そこですら古いJISの図面の行き来がいまだにあるという。自動車は、新規構造の部品はそれほど多くない。特にそのサプライヤで、ステアリングなど技術が確立された機能部品では流用設計がさらに多くなる。つまり、過去の図面を設計の参考にする機会が多く、古い表記と縁を切りづらくなるというわけだ。
「そのままではいけないことは誰しもが分かっていても、すぐに変えれば問題が起こるだろうという議論が必ず出てきます。ただ、50年後も100年後も、そのままだと世界から置いていかれてしまうことは確かです。そうですね……CADから図面を印刷するときに、もれなく一緒に新旧JISの対応表が付いてくるといいかな、と思います。それも5年、10年とそれを載せておかないと浸透しないかもしれません……」(山田氏)。
※「技術の森」内の宇都宮 茂氏執筆のレビューも併せてご覧ください。
*本記事内の技術の森の投稿内容の転載につきましては、運営元であるエヌシーネットワークの許可を得ています。
仕上げ記号〜 について
いつもお世話になっています。
〜記号について、教えてください。
JISB0031をみると「特に規定しない」となっています。
また、除去加工を行わないもの(素地のまま)となっています。
つまり、粗さを規定しない切削加工については▽記号(現在は数学で使うルートのような記号)が必要となる。としていいですか。あらためて確認のため質問とします。
背景は、切削加工はするけど、粗さは特定しない加工について〜を用いた図面があったため。
今回の質問タイトルにある表面粗さ記号「〜」は、「ナミ」と呼ぶもの。「▽」(三角記号)で表す表面粗さ記号も、〜と同期のJIS表記ルールだ。▽が増えるごとに「1発」「2発」とカウントして呼ばれることが多い。機械加工の現場では「フライスを一発引く」というので、そこから来たのではないかとのこと。
先に紹介したように、いまだにこれらの古いJIS記号を使用している企業はたくさんあるようだ。今日の現場にある工作機械の操作ボタンにも、▽記号が多く見られる(該当する表面粗さで加工するボタン)。
なおJISの表面粗さ記号の規定は、過去、おおよそ以下の3ステップで変わっている。
つまり、▽と〜は、60年近く前に生まれたJISということになる……。
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さて、この件にはいくつか回答が寄せられていたが、皆さんはどれが一番正しいと思っただろうか? また、どう回答するだろうか。
ここで、回答の一部を取り上げてみよう。
「素材肌や鋸目でもかまわないのならば、〜を使ってもいいです」(回答1さん)
「〜は、そのままでOKです。
溶接で、スラグはエチケットで除去ですが、焼けや表面の荒れは
そのままで可です」(回答2さん)
「会社によっては〜を使用せずに注記で指示なき場所は黒皮可などと
する所もあります」(回答3さん)
上記の回答のように、「〜」とは「除去加工を問わない」つまり、「表面粗さを規定しない」という意味だ。
「図面に何も指示されていないと、加工屋さんから『チャック(部品固定)をするために一発引かしてほしい』といった問い合わせがくることがあります。そんな場合もOKですよ、という場合『〜』を書きます。それから、鋳物の肌や黒皮(酸化した表面)を整えず、そのままで納めてもらっていいという場合にも付けます。この場合、下記の写真のように表面が汚い状態でもいいですよということになり、とても商品価値のある部品にはなりません」(山田氏)。
実は上記、投稿タイトルの質問(〜記号について)の答えとしては合っているが、投稿者の質問内容をよく考えると、本当の答えにはなっていないことにお気づきの方もいるだろう。
質問文をふたたび最後まで読み返して、よく考えてみると、分かるかもしれない。
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