次に、CANopenの通信部分をつかさどる「通信プロファイル」を紹介します。
通信プロファイルには、前述のオブジェクトディクショナリーの構造定義をはじめ、オブジェクトの種類や送受信関係、デバイス制御やネットワークマネジメントの方法が定義されています。
例えば、通信オブジェクト(SDO:サービスデータオブジェクト、PDO:プロセスデータオブジェクト)や、通信モデル(マスター/スレーブ、プロデューサ/コンシューマなどの通信関係)の定義、デバイスの状態遷移やブートアッププロトコル、エラーコントロールサービスやエマージェンシーなどのネットワークマネジメント機能があります。
ほかの通信制御プロトコルをご存じの方は、これらの言葉からおおむね内容を想像いただけるかと思います。一般的に必要な通信制御やネットワークマネジメントの要件がそろっていることはいうまでもありませんが、これらのパラメータもすべてオブジェクトディクショナリーのエントリとしてデバイス個々に設定できるのがCANopenの特徴です。
例えばシステムの初期化では、ネットワークの通信速度やエラーコントロールサービスの関係などを各デバイスのオブジェクトディクショナリーに設定します。また、システムの実行中にも、各デバイスがオブジェクトの送信タイプや送信周期を変えたいときには、それぞれのローカルオブジェクトディクショナリーを書き換えて設定を変更できます。
これらの通信プロファイルは下記の規格書で定義されています。
いずれも、CANopenネットワークやCANopenデバイスの設計開発の際には必読の規格書です。なお、CANopenの規格書は大きく2種類に分類できます。1つは上記の301や302に代表される通信プロファイル類で、CiAの規格書番号は300番台が割り当てられています。もう1つは後述のデバイスプロファイルやアプリケーションプロファイル類で、規格書番号は400番台が割り当てられています(図2)。
次に、CANopenのアプリケーション部分をつかさどる「デバイスプロファイル/アプリケーションプロファイル」を紹介します。2009年3月時点で、下記のプロファイルが標準化されています。
それぞれ、汎用デバイスを制御するためのデバイスプロファイルや、それらを組み合わせて特定アプリケーションの制御用にカスタマイズしたアプリケーションプロファイルがあります。例えばモーションコントローラの場合、動作モード、電流、ベロシティ、トルク、ポジション、ホーミング、加速、減速など一般的なモーションコントロールに必要なオブジェクトが定義されています。
これだけ多くのプロファイルが標準化されていることにより、市販のデバイスを使う場合も、新しいデバイスを開発する場合も、短期間で効率よく設計開発を行えます。
また、上記のように多岐にわたって標準化されたプロファイルとは別に、メーカーが独自に定義したオブジェクトもオブジェクトディクショナリーに登録できます。
最後に、「EDSファイル」を紹介します。
EDSファイルは、そのデバイスが対応している機能や送受信オブジェクトを、オブジェクトディクショナリーのエントリ形式で記述したファイルです。前述の通信プロファイルやデバイスプロファイルで規定されている標準オブジェクト、そしてメーカー独自のオブジェクトをすべて記載した、いわば“デバイスの機能仕様書”になります。
CANopenデバイスには、必ずEDSファイルを併せて提供する必要があります。デバイス購入時はもちろん、購入前の評価検討のためにEDSファイルを事前に提供することも一般的です。汎用的なデバイスであれば、メーカーや販売店に依頼すればEDSファイルを無料で提供してもらえますし、WebサイトにEDSファイルを公開しているメーカーもあります。
EDSファイルを見れば、一般的なカタログ情報よりも詳細に機能を理解できますし、CANopen用のシミュレータソフトなどを使えば、実デバイスがなくてもデバイスやネットワークの評価が可能です。使用を検討しているデバイスや、開発するデバイスの通信相手となるデバイスに目星が付いているのであれば、まずそのメーカーからEDSファイルを入手することがファーストステップとなります。
ちなみに、EDSファイルはCANopenフォーラムなどから無料で入手できるEDSエディタで閲覧・編集できます。EDSファイルはASCIIテキストで書かれていますので一般的なテキストエディタでも閲覧・編集ができますが、デバイスによっては膨大な情報量を持っていますので専用エディタを使った方が便利でしょう。
関連リンク: | |
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⇒ | CANopenフォーラム |
今回紹介したCANopenの特徴の中でも、オブジェクトディクショナリーと各種デバイスプロファイル、アプリケーションプロファイルは、CANopenならではのユニークな仕様です。また、それらの情報は各デバイスのEDSファイルに具体的に記されています。興味を持たれた方は、各デバイスメーカーからCANopen用EDSファイルを入手して、閲覧してみてください。また、CiAの公開規格書やCAN Newsletterなど、無料の情報・サービスも併せて利用すれば、より詳しくCANopenの特徴や応用例を理解していただけると思います。
さて次回は、CANopenデバイスの開発やCANopenデバイスを用いたシステム構築の方法について紹介します。ご期待ください!(次回に続く)
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