日本が抱える3つの問題「新興国の脅威」「エンジニア不足」「過剰な高機能・多機能競争」にどんな解決策があるのだろうか?
マイケル・E・ポーター氏は、世界のビジネスエリートを数多く輩出している米ハーバード大学の経営大学院(MBA)、ハーバード・ビジネス・スクールで最も有名な教授の1人であり、競争戦略論の父といわれている。
PTCの社外取締役を務めるポーター氏は2008年12月3日、PTCジャパンの招きで「PTCジャパン、エグゼクティブセミナー」の講演のために来日した。東京・六本木アカデミーヒルズで開催された講演「マイケル・E・ポーター エグゼクティブセミナー 〜グローバル市場におけるものづくり競争力〜」の後、ポーター氏にインタビューを行う機会を得た。本稿では日本ものづくり企業が抱える主な問題点である、
の3項目について、ポーター氏の提言を紹介しよう。企業の経営層に向けた戦略論の性格は強いが、若手エンジニアやミドルクラスのマネージャにとっても、今後の製品開発に役立つヒントになるだろう。なお、本インタビューに先だって行われた講演の模様は、連載記事として公開中である(下記の関連記事参照)。
Q1:CAD/CAM/CAEといった設計支援ツールの普及によって、製造業界における中国やインドといった新興国の競争力は以下の2方向のうち、どちらにより強く変化するとお考えですか。
また、前者の場合、日本をはじめとする先進国のものづくり企業には、どのような防衛戦略が考えられますか。
ポーター氏
中国、台湾、インドといった新興国のものづくり企業は、設計や製造に関して、最新のテクノロジーやソフトウェアツールを獲得しようとする高い意欲を持っています。先進国のソフトウェアベンダにとって、新興国のソフトウェア市場が拡大するのは大変結構なことですが、彼らは世界に通用するものづくり技術を身に付けて、先進国の市場でも優位性を獲得しようと努力していますから、先進国はこれから大変厳しい競争に直面するでしょう。質問にあるように、欧米や日本のものづくり企業が脅威を受けているのは事実です。
しかし、デルやHPといった先進国の企業も、新興国の追随に対して手をこまぬいて待っているだけではありません。先進国の企業は逆に、たくさんの製品を新興国市場に投入しています。新興国は単に低い労働コストといった利点だけで、いつまでも優位性を持ち続けられないでしょう。なぜなら、先進国の企業は新興国の経済にマッチするようコストを下げた製品を投入しているからです。
また先進国の企業はコストで新興国に対抗するだけでなく、充実したサポートやサービス、ユニークなデザインなどを提供することで、高コストに見合うだけの価値を提供することも有効でしょう。数年先の市場競争はより厳しくなりますが、先進国の優位性、例えばアメリカが獲得したITテクノロジーなどは、そう簡単に崩れないと思います。
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