マイケル・ポーター教授が日本ものづくりを診断!モノづくり最前線レポート(8)(3/3 ページ)

» 2009年01月27日 00時00分 公開
[上島康夫,@IT MONOist]
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過剰なまでの高機能・多機能競争から脱却する処方

Q3:日本の製造業界は、技術革新や多機能化による差別化戦略を目指す傾向が強く、収益性を阻害する過剰競争がたびたび起きます。このような業界体質を改善させ、収益性を向上させる有効な戦略はありますか。

ポーター氏 
日本の製造業界は、製品の差別化を図るに当たってたくさんの機能を搭載する方向に進み、顧客にとって必要のない機能まで盛り込んでしまう問題が起こりがちです。その結果コストが超過したり、複雑過ぎて使いこなせない製品が生まれてしまいます。そうこうしているうちに、低コストでシンプルな製品を外国企業から出されて、市場を奪われてしまったりします。そういった日本企業の戦略の失敗例をたくさん見てきました。

 その根底にある問題は、1つの製品でたくさんの顧客ニーズに応えようとする戦略的な過ちにあります。これを解決するには、製品戦略をもっと明確に打ち出すことです。もっと特定の顧客ニーズに即した製品開発を行うことです。すべてのニーズを同時に満たす“オールインワン”製品を設計しようとするのは間違いです。

 世界的な製品開発向けソフトウェア業界を例に取りましょう。ここではPTC、ダッソーシステムズ、シーメンスPLMソフトウェアの大手3社が競争しています。この3社は自動車や航空機といった非常に複雑な製品開発を必要とするエンジニア向けにソフトウェアツールを提供してきました。その結果、たくさんの機能やフィーチャーを搭載した洗練されたソフトウェアツールを持つに至りました。

 そこへ新たな企業が参入してきました。その企業のアイデアは「多くのエンジニアはそんなにたくさんの機能は望んでいないだろう」というものでした。その企業というのはソリッドワークスで、大変低価格でシンプルなソリューションを市場に投入したのです。そして中小規模の市場で大成功を収めました。ソリッドワークスの機能は限定的でしたが、単純な製品の開発であれば必要十分だったというわけです。

 このように1つの製品ですべてのニーズに対応しようとすると、単機能低価格の製品に対して弱くなってしまいます。そして業界で何が起こったでしょう? ダッソーシステムズはソリッドワークスを買収してしまいました。これは1つのブランドで、複雑な製品開発向けとシンプルな製品開発向けの2つのソフトウェアを持つという戦略です。

 PTCは別の戦略を選択し、シンプルな製品開発向けソフトウェアをまったく新たに開発しました。それはマイクロソフトのSharePointプラットフォームを利用した「Windchill ProductPoint」という製品で、とても簡単に使えて低価格です。しかもより複雑な製品開発にも対応できるような拡張性を持っています。

 日本の製品は、複雑で特徴が多過ぎる傾向にありますが、エンジニアの夢を実現するために生まれたような高機能製品など顧客は使いこなせません。マニュアルを読むのに1年もかかるのですから。エンジニアのマインドセット、つまりたくさんの機能を盛り込みたいという誘惑に負けず、顧客が何を望んでいるのかをしっかりつかむマインドセットに移行することが日本のものづくり企業に求められます。

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 本稿では、マイケル・E・ポーター氏による日本ものづくり企業への3つの提言をお届けした。特に3番目の提言は、商品企画や製品設計に携わるエンジニアにとって参考になったのではないだろうか。

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