GMや日産が苦心したVTCの原理とはいまさら聞けない エンジン設計入門(10)(2/3 ページ)

» 2008年11月28日 10時30分 公開

 位相変化型可変バルブタイミング機構では、カムプーリとカムシャフトとの間に油圧室を設けて、オイルを満たしておきます。つまりクランクシャフトからカムプーリに伝わった駆動力をオイルを介してカムシャフトに伝達するようにしているわけです。

 進角側と遅角側とに分かれている油圧室の片側に油圧を掛けることで、カムプーリ(ハウジング)を固定した状態でカムシャフト(ベーン)のみが回転します(図1)。

位相変化型のカムプーリ内部 図1 位相変化型のカムプーリ内部:カムプーリ(ハウジング)は固定されていて、内部のカムシャフトのみが回転する

 油圧でカムシャフトのみが回転する、ということはカムシャフトとカムプーリの位相が変化(回転)した、つまりクランクシャフトとカムシャフトの位相が変化したことになります。

 進角や遅角という聞き慣れない表現が出てきましたね? 進角というのは字のごとく「カムシャフトを進める」ということです。それはすなわち、「バルブを開くタイミングが速くなる」ということになります。そうなることで、オーバーラップが多くなり、高回転域に向いたバルブタイミングとなります。逆に遅角の場合、オーバーラップが少なくなり、低回転域で安定するバルブタイミングとなります。

 まず進角させた場合のカムプーリ内部の動きを見てみましょう。

進角時のカムプーリ内部 図2 進角時のカムプーリ内部:進角側油圧室に油圧が掛かり、カムシャフトが進角側に回転した(押された)状態

 図2のように、油圧がカムシャフト(ベーン)を進角させる側の部屋に働くことで、カムプーリ(ハウジング)に対してのカムシャフトの位相が変化することが分かります。もちろんこのときのカムプーリとクランクシャフトとの位相の変化はありません。

 次に遅角させた場合の動きも見てみましょう。

遅角時のカムプーリ内部 図3 遅角時のカムプーリ内部:遅角側油圧室に油圧が掛かり、カムシャフトが遅角側に回転した(押された)状態

 図3を見てください。先ほどの進角とは正反対の部屋に油圧が掛かって遅角していますね。

 このように従来は非常識、不可能といわれたクランクシャフトとカムシャフトの位相を「油圧」を活用することでエンジン回転中に変化させることができるようになったのです。

 上記で説明した位相変化型の可変バルブタイミング機構を「VTC(Variable timing control」または「VVT(Variable valve timing)」といいます。今回の記事では、VTCと呼ぶことにします。

 日産自動車のNVCSは、先述の通り、国産車としてのVTCの元祖として採用された初の機構でした。さらに歴史をさかのぼると、ゼネラルモーターズ(GM)が実験をしていた経緯もありますが、機構として完成させることはできませんでした。

位相変化とバルブリフト量のコントロール

 上記の解説で取り上げたVTCは「ベーン式」と呼ばれるタイプです。このほかにも数種類あります。例えば「ヘリカルスプライン(ギヤ)式」や「チェーンテンショナ式」です。一般的な見解として、これらのVTCは、バルブタイミングを変化させることはできますが、バルブリフト量を変化させることはできないので、「最大出力への効果は小さい」とされています。

 こういった表現をすると、

 「バルブリフト量を変化させる機構もあるの?」

 という声が聞こえてきそうですね。

 もちろん可変バルブタイミング機構が出始めた当時はありませんでしたが、その後の研究や技術力の向上によってVTCのようなバルブタイミングの位相を変化させる機構だけにとどまらず、バルブリフト量も可変させることが可能な機構が登場しました。

 それが本田技研工業に代表される「VTEC(Variable valve Timing and lift Electronic Control system)」です。

 和訳すると「電子制御可変バルブタイミングとリフト機構」となりますが、VTECの長所としては後者の「リフト機構」となります。

 何となくお察しいただけるとは思いますが、バルブリフト(開弁量)といえば、バルブタイミング同様に、以下のようなジレンマがあります。

  • 小さい開弁量だと低回転でとても効率が良いが、高回転時には効率が下がってしまう
  • 大きい開弁量だと高回転でとても効率が良いが、低回転時には効率が下がってしまう

 それを解消したのが、VTECです。次のページでは、VTECの作動について、DOHCエンジンを例に挙げて説明していきます。

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