TOCでは「原価計算は生産性の最大の敵である」と主張する。現行の会計制度に存在する矛盾を明らかにし、企業の継続的な利益創出を支援するTOCスループットの基本を紹介しよう。
こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングの村上悟です。本連載ではTOCスループットを取り上げるに当たって、「会社のムダを根こそぎ撲滅する」といういささか大きなテーマを掲げてみました。
では「ムダ」とは何でしょう? 広辞苑によれば、
むだ【無駄・徒】役に立たないこと。益のないこと。また、そのもの。「―な出費」「努力が―になる」
と出ています。
ムダと聞いてトヨタ自動車で有名なジャストインタイム(JIT)を想像した方もいらっしゃるかもしれませんね。トヨタ生産方式(TPS)では、ムダを「付加価値を高めない各種現象や結果」と定義しています。そしてムダには、代表的なものとして以下の7つがあり、それを「7つのムダ」と表現しています。このムダをなくすことが、トヨタ生産方式では重要であるとされています。
これらは、企業の付加価値を高めるためには必要のないムダです。しかし、企業の「利益」という見方で考えた場合、これらのムダの中には「利益を減らさないムダ」もあるのです。
「利益創出! TOCの基本を学ぶ」で紹介したように、一般的に工場にはボトルネック工程と非ボトルネック工程があります。もしも非ボトルネック工程の加工設備に加工速度が低下しているというムダが発見されたとしても、非ボトルネック工程は全体のアウトプットには影響を与えませんから、利益という観点からはムダではありません。逆にボトルネック工程は全体のアウトプットを握っていますから、加工設備の速度低下は大変重要なムダ(問題)になります。
実は企業のさまざまなムダをきちんと見つけるためには、利益とは何か、ということをはっきりさせる必要があります。
本連載では、トヨタ流の「7つのムダ」のほかに、
を理解することで、皆さんがいかに「もうけから遠ざかっているか」を見えるようにしていきたいと思います。今回は「原価計算のムダ」を通じて「利益とは何か」を検討していきます。
会社のムダを見つけるのに、なぜいきなり原価計算のムダなのでしょうか。
実は、現在経理部門を中心として行われている会計制度は、決算や納税に使う「財務会計」と呼ばれる「仕組み」からできています。しかし、経営のムダを発見するためにこの仕組みを使用することは適切ではありません。ところが、この会計情報からもたらされる判断は、多くの企業で経営的意思決定の資料として使われてきました。企業に存在する、予算や目標といった方針や仕組みは、この会計制度が提供する情報を基にして構築されているのです。
TOCの開発者であるゴールドラット博士は何年にもわたって、
原価計算は生産性の最大の敵である*
*Goldratt's 1983 paper、'Cost Accounting: Public Enemy Number One'
と主張してきました。現状の会計制度に基づく原価計算が生産システムに与える影響を少し考えてみましょう。
現在、大部分の企業で採用されている原価計算制度は固定費の配賦方法という本質的な問題を抱えています。結論からいえば、
ということなのです。間接経費はそもそも生産量に比例して発生する費用は少なく、ほかの経費とは発生するメカニズムが違うのです。それを何とか理屈を付けて製品原価として算定することは誤りといわなければなりません。
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