いよいよ北米50州でのディーゼル乗用車発売が本格化してきた。Volkswagen社の「VW Jetta TDI」を皮切りに、Audi社、Daimler社、BMW社というドイツの大手自動車メーカーが年内発表を表明している。そして、ディーゼル乗用車の本場ともいえる欧州でも、よりクリーンで、よりパワフルな新型エンジンの投入が相次いでいる。
いよいよ北米50州でのディーゼル乗用車発売が本格化してきた。Volks wagen社(VW)の「VW Jetta TDI」を皮切りに、Audi社、Daimler社(M.Benzブランド), BMW社というドイツの大手自動車メーカーが年内発表を表明している。そして、ディーゼル乗用車の本場ともいえる欧州でも、よりクリーンで、よりパワフルな新型エンジンの投入が相次いでいる。そこで、これら最新ディーゼルエンジンに共通する技術アイテムを取り上げながら、各社の最新モデルを紹介する。
今回紹介するのは次の3モデルで、それぞれ特筆すべき性能を持つ。
いずれも4気筒2Lクラスだが、この3つのエンジンには共通して吸排気系に最新技術アイテムが搭載されている。それはVW Jetta Blue TDIに搭載されるEGR(exaust gas recirculation:排気再循環)システム、そして、BMW 123d、M.Benz C250CDIに搭載されるシーケンシャルツインターボシステムだ。
VW Jetta Blue TDI(写真1)のベースとなったエンジンは2007年、欧州で「VW Tiguan」や「Audi A4」に搭載された4気筒TDI(ターボディーゼル)。すでにこの時点で2009年から欧州で規制される「Euro5」という排ガス規制に先行適合していた。この4気筒TDIを北米最新規制である「Tier2 BIN5/CA LEV2」対応とするために改良を行ったものが、この新しいBlue TDI。
2Lの排気量で、103kW/140psの最高出力と、320Nmの最大トルクを発生する。最新クリーンディーゼル技術のお決まりに則って、Blue TDIも180Mpaの高圧コモンレールインジェクタ、EGRシステム、そしてNOx削減装置が備わるが、注目すべきなのがEGRシステムである。また、筒内圧センサーを用いた高精度燃焼制御も採用されているが、同システムについては、前号の記事(本誌第2号、アウディのクリーンディーゼル「TDI」の実力)を参照されたい。
さて、EGRは排気を再循環させることで、燃焼温度を下げることが可能となり、NOx発生を低減させる技術だ。熱を持つ排ガスを再循環させるとどうして燃焼温度が下がるのか、と逆のイメージをもたれるかもしれないが、空気より排ガスのほうが多くの熱を奪えるので燃焼温度を低下させることができるのである。また、燃焼反応そのものを緩慢にする効果もあり、局所的な高温を避ける事もできる。さらに、単純に燃焼室に入る窒素が少なくなるのでNOx発生が低下する、等々の効果がある。もちろん最新のEGRシステムはクーラーにより再循環させる排ガス温度そのものも低下させている。
さて、このようにEGRは多く再循環されるほどNOxを低下することができるが、相反してPMが発生しやすくなるので、あらゆる運転条件に応じた最適制御が行われている。しかし、ターボエンジンはNOxが発生しやすい時は吸気系も圧力が高い状況にあり、EGRを最適な量まで再循環することが困難だ。そこで、このBlue TDIは2つのEGR系統を持っている。高圧EGR系と低圧EGR系を組み合わせて、あらゆる運転条件に対応したEGR制御を可能としている。具体的には、排気タービンに入る手前(上流)からコンプレッサ下流に戻す高圧EGR系統と、排気タービン下流で酸化触媒/DPF(パティキュレートフィルタ)下流からコンプレッサ上流に戻す低圧EGR系統がある(図1、図2)。
このようにEGRの効果を最大限利用して、エンジンから排出されるNOxを限りなく小さくすることで、後処理装置でのNOx削減にかかる負担を減らしている。そのため、このTDIのNOx後処理システムは尿素水「AdBlue」を必要としないタイプだ。NOxトラップ触媒と表現されているが、いわゆるNOx吸蔵還元型触媒だと思われる。この触媒を使って、NOxを0.05g/マイル(約0.03g/km)というTier2 BIN5/CA LEV2の厳しい規制値まで低下させる事を可能としている。
ところで、ディーゼルエンジンの特徴である燃費性能(=CO2排出量)はどうだろうか。ハイウエイ走行モードでは60マイル/ガロン(約25.5km/L)であり、CO2排出量は約102g/kmととても優秀だ。もっとも、測定モードが少し燃費に有利なパターンなのには注意が必要だが優れた値と言える。先に書いたNOx後処理に尿素を使わないタイプを使用しているということは、NOx浄化のために若干の燃費悪化が懸念されるのだが、この走行パターンではまったくといって問題になっていないこともうかがえる。
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