「さあ、この表4から表7の設計分析欄からキーワードを拾ってみるんだ。この灯油ポンプの設計者の設計思想を探ってみろ」
甚さん、甚さん。僕、見えてきたぁっ! 『1.低コスト』『2.信頼性」――これらが設計思想ですね。そして、それを満たすための『How』。『How』のその設計手段が、『1.1部品2機能 』「2.シンプル構造」です。そうかっ!
よくぞ分析した! 褒めてやんよ。よし、これからホッピーでも飲みにいくか? 今夜はオレサマが奢ってやらぁ。
話は白熱し、はと気が付けば、もう夜の8時過ぎでした。その後、2人は甚さん行きつけの赤提灯へ行きました。
ちょっぴり生まれ変わった(!?)良君に、ホッピーと焼き鳥で乾杯です! 甚さんにとっての良君は、(年齢差からいっても)まるで孫のようにすら思えるようです。そして、良君も……
甚すゎ〜ん! 僕ぁ……僕ぁね、久々に感動しました。これからも、よろしくお願いしますっ!
よし、いい子だ。設計思想は形となって現れるんだ。だから、“設計物”は逆分析ができる。だが、オメェの“作品”は逆分析ができねぇのさ。そんなんだから『造形』だっていわれんだよ。分かったか?
ハイ、甚すゎん! そんでもってホッピーおかわり〜! いやぁ、ホッピーって、安くってウマいっすね。しかも低カロリーだし、ウハハッ!
今回は、「設計思想」を理解していただくために、既存の灯油ポンプを設計分析してその設計思想を探りました。この灯油ポンプは100円ショップで販売されています。もちろん100円です。その推定原価は30円です。弁の構造とその組み立て(図1)の素晴らしさは、文章と写真では十分に理解できないと思います。
実は……皆さんに少しキツい言葉を残して、今回の幕を閉じなくてはなりません。
あなたがこの記事を読んだ後で、どのような行動をするか? なのですが……。
さあ、どちらでしょう?
技術者は大体、以上の2タイプに分かれるようです。筆者の経験上でいえば、前者が2割、後者が8割です。“設計者”はタイプA、かつての良君のような“3次元モデラー”はタイプBの傾向があります。
筆者は、コストバランス法(「超低コスト化設計法」)、3D-FMEA(「信頼性設計」)、MDR(「ミニデザインレビュー」「身の丈デザインレビュー」)など、などで、各企業の方々と設計改革や設計改善を図っています。そこで成果が出るのは、圧倒的にタイプAの集団なのです。
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『推定原価30円、販売価格100円』というシンプルな灯油ポンプから、設計という奥行きの深さを理解していただけましたか? 次回は、計思想とその優先順位に関して、甚さんと良君と一緒に考えていきます。ご期待ください。(次回に続く)
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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